江戸中期にフィリピンへ漂流、帰国 「徳永丸」船員の記録解読 鹿内さん(青森・五所川原市)自費出版

出版した「漂流 徳永丸 物語」。左は第2部のページで、右側に原文、左側に解読文と訳文が配置されている

 青森県五所川原市在住で青森古文書解読研究会の鹿内武三さん(72)が、深浦町の円覚寺が所蔵する古文書「漂流人青森之儀兵衛口書」を解読、現代語訳した「漂流 徳永丸 物語」を自費出版した。古文書は江戸中期に現在の北海道から青森へ向かっていた船「徳永丸」の乗組員がフィリピンまで漂流し、中国を経由して帰国するまでの様子を語った記録。鹿内さんは「当時の日本で、漂流して帰国できた人はそんなに多くないと思う。ぜひ読んでもらえたら」と話している。

 食料品を運ぶ船だった徳永丸には現在の青森県、秋田県、北海道出身の船乗り5人が乗船。1795(寛政7)年11月、苫小牧から青森に向かう途中の尻屋崎沖で高波と強風に遭い、船員たちは1月にフィリピン北部のイトバヤット島に流れ着くまで約2カ月を海の上で過ごした。その後、当時スペイン統治下にあったマニラなどに滞在。現地の人たちの助けを借り、中国を経由して99年に帰国した。

 古文書「漂流人-」は帰国後に船頭の儀兵衛(現青森市出身)が弘前藩の取り調べに対し語った内容を書き記したもの。船員の一人、円次郎(現五所川原市出身)が写本を深浦町の円覚寺に奉納した。漂流時の様子や、マニラで見た大砲を使った軍事練習の風景、現地の人たちの身なりなど当時の世界情勢を記した内容も見られる。

 「漂流 徳永丸 物語」は2部構成となっており、第1部は古文書を現代語訳したものを掲載。地図や語句の注釈も入れ、誰にでも読みやすいように編集した。第2部は右ページに崩し字で書かれた原文を、左ページに解読文と訳文を置くことにより見開きで対比できるようにした。

 鹿内さんは奉納者が五所川原市出身ということに興味を引かれ、2年ほどかけて解読したという。「鎖国下の日本で、海外から帰国した円次郎には藩の監視の目があったはず。そんな身でありながら藩境が近い深浦まで奉納に行っている。そういう面でもこれは貴重な史料といえると思う」と話している。

 「漂流 徳永丸 物語」はA4判・132ページで、1650円(税込み)。今月上旬から県内の書店で販売している。問い合わせは鹿内さん(電話090-6686-3730)へ。

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