社説:劣化ウラン弾供与 非人道性に懸念を拭えない

 米国がウクライナへの新たな軍事支援として、健康や環境面で懸念される劣化ウラン弾の供与を決めた。

 国際条約が禁じる殺傷能力の高いクラスター(集束)弾も既に提供している。道理のない無謀な侵略を続けるロシアへの対抗とはいえ、非人道的な兵器の使用拡大は看過できない。

 劣化ウランは核兵器製造や原子力発電で使われる濃縮ウランをつくる過程で生じる放射性廃棄物だ。比重が重く、砲弾の芯に使えば貫通力が増し、戦車などの装甲を貫く破壊力がある。

 ただ、重金属としての毒性に加え、さく裂した際に放射性物質が微粒子となって飛び散り、人体に入り込んだ場合は体内被ばくを引き起こす恐れがある。土壌汚染も否定できない。

 英国は米国に先駆け、主力戦車チャレンジャー2用の弾薬としてウクライナに供与しているが、米国は初めてだ。

 ウクライナ軍が反転攻勢を始めて3カ月になる。戦況の膠着(こうちゃく)が続き、米国は月内にも戦場に到着する米軍の主力戦車エーブラムスからの発射を想定し、ウクライナの領土奪回を後押しするのが狙いとみられる。

 しかし、ロシアは「核成分」を備えた兵器だと主張し、反発を強めている。実際、英国の劣化ウラン弾供与時、対抗措置として同盟国ベラルーシへの戦術核兵器の配備に着手した。

 米軍や英軍は「人体への影響はない」として、その危険性を明確に認めていない。だが、国際原子力機関(IAEA)などは破片を取り扱った場合に放射線を浴びる危険性を指摘する。

 劣化ウラン弾は、湾岸戦争やイラク戦争でも大量に使用された。その地域で白血病などの発症率が高まり、米軍帰還兵に放射線被ばくと似た「湾岸戦争症候群」が生じ、劣化ウラン弾に起因するとの見方は根強い。

 在日米軍基地にも配備され、1995~96年に沖縄県の無人島で米軍が行った実弾射撃訓練で、大量に「誤射」されていたことが発覚し、その毒性が問題となったことがある。

 広島県内の七つの被爆者団体は「非人道的な核兵器の一種で、製造も保有も、使用は無論のこと許されない」との声明を出し、供与中止を訴えている。核の残虐性を身をもって知るだけに抗議は当然であろう。

 ロシアの侵略にこそ責任があるのは自明だが、新たに要らざる口実を与えかねない。対抗して戦術核を用いれば、核戦争を誘引する危険性すらあり得る。

 戦争の終わりが見えない中、双方が武器の増強を競えば、戦闘の激化を招く。劣化ウラン弾の使用はウクライナの戦後復興にも支障を来しかねない。

 唯一の戦争被爆国である日本は、劣化ウラン弾禁止を働きかけ、平和国家としての責任を果たすべきだ。

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