高杉真宙、舞台が好きという「ダメ出しをもらうのも幸せなこと」

少年たちが憧れるスーパーヒーローから、全女子がキュンとする子犬系男子まで、多彩なキャラクターをナチュラルに演じる俳優・高杉真宙。「舞台が大好き」と公言し、年1回ペースで演劇作品に出演する彼が今回挑むのは、誰もが知るシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』。

舞台『ロミオとジュリエット』でロミオ役を務める俳優の高杉真宙

数多くの俳優たちが、青年から大人へと成長する過程で通過してきたロミオ役に、どのようにアプローチするのか? その意気込みだけでなく、人見知りを克服するコツなど、いろいろと話を訊いた。

取材・文/吉永美和子

● 「『息苦しさ』は、時代が変わっても共通する部分がある」

──意外にもこの『ロミオとジュリエット』が、本格的なシェイクスピア作品としては初挑戦です。シェイクスピアは、俳優なら誰もが一度は通る道だと言われていますが。

それは初めて聞きました。背筋が伸びましたね、今(笑)。でも、初めてがっつり演じるシェイクスピア作品が『ロミオとジュリエット』というのは、幸せに思います。もう少し年齢を重ねたら、ほかの作品もできるとは思うんですけど、ロミオ役を演じるのは今の27歳がギリギリかな? という気が、僕はしているので。

大阪では9月29日〜10月1日に上演される舞台『ロミオとジュリエット』

──高杉さんのロミオのイメージは。

「アホの子」です(笑)。でもそれは悪い意味じゃなくて、10代の子たちがなにかに夢中になったときの情熱って、アホなぐらい純粋じゃないですか? そこにどれぐらい、僕は寄り添えるのかなあ? と。あとは、神とか不条理にあらがえなかった人。「戯曲」と呼ばれるものって、みんな神や不条理にあらがおうとしている印象が、僕にはあるんです。でもロミオは若いせいなのか、そことあらがっている感じがない。

──ロミオはまだ16歳なので、なにか問題を抱えていたとしてもせいぜい家や友達止まりですよね。関係性というか、見えている世界がまだ小さい。

そうなんです。だから小さな世界にいるロミオが、息苦しそうに僕は思えるんですよ。さらに2人の家同士が、どれぐらいの規模で争っているのか・・・隣家なのか、町ぐるみなのか、国同士なのか。その規模によって、この子たちの息苦しさの規模は変わるし、逃げなきゃいけない規模も変わる。そこを今回僕は明確にしないといけないし、できるだけ大きくしたいなと、今のところは考えています。やっぱりそこが大きい方が、悲劇も大きくなりますからね。

──今まで結構『ロミジュリ』は見てきましたが、争いの規模というのは考えたことがなかったので、目からウロコでした。

今は家柄とか土地に縛られるということが、時代的に無くなってきていると思いますけど、また別の息苦しさ、不便さが生まれているんじゃないかと。たとえば今って、携帯ですぐに連絡が取り合えるけど、それで心の距離は近くなったのか? と言われたら、逆に昔より難しくなっているような気もするし。そういう「息苦しさ」は、時代が変わっても共通する部分があるんじゃないかと、なんとなく思っています。

● 「『すげえ大変だなあ』って思うのは、死ぬ役」

──若者たち特有の「息苦しさ」を描いてるのが、この作品が時代を超えて愛される理由なのでしょうね。そういえば以前、あるロミオ役の人に「この役のなにが大変か?」という質問をしたら「毎日、初恋をしなければならないこと」と言われて、なるほどなーと思ったことがありまして。

え、素敵な言葉ですね! でも言われたら確かにすっごい難しそう、それ。聞きたくなかったなあ(一同笑)。

──なんかすいません。とにかく毎公演恋に落ちて、死んで、また一から恋に落ちるのが、ロミオ役の大変なポイントだといいますね。

そうなんですよ。僕舞台で「すげえ大変だなあ」って思うのは、死ぬ役なんです。特に1日2回公演があるときは、死んで生きかえったときの絶望感がハンパじゃないから「もう1回死ぬのかー」って、いつも思います(笑)。ゼロから1に上げて、1を100にして、100をゼロにする・・・という繰りかえしになるので、今回はそこをうまく操作したいです。

舞台をやる上での「大変な役」について語る高杉

──高杉さんはこの作品のPR動画で「舞台が好き」と、きっぱり発言していましたね。

はい。ドラマや映画は、できないこともやらなきゃいけないけど、舞台は「自分がやれること」だけがハッキリするので、自分の位置を客観視できるというイメージです。あと、1カ月も稽古ができるのが最高ですね。稽古は大好きだし、ダメ出しをもらうのも幸せなこと。今はこの言い方は避けられてますが、僕は「ダメ出し」のままでいいと思ってます(笑)。

──今回の課題はなにかありますか?

シェイクスピアの作品って、独特のリズムがあるじゃないですか? 読み合わせを何回かやって、先輩たちの口調を聞いていくうちに「あ、気持ちいいな。このリズム」という感じにはなってきました。でもこれが、どのぐらい(観客に)伝わるのかな? と。本当に上手い俳優は、このリズムに感情を乗せるということができると思うんです。でも僕は、それがどれぐらいできるのかまだわからないから、上手くできたらいいなというのがひとつの目標です。あとは先輩俳優たちが、どうやって「先輩」になったのか? ですね。

──その意味は?

僕が出会った、舞台を多くやられている先輩たちは、みんな「いつでも爆発できる燃料を積んでいる」という気がするんです。これから役者を続けていくうえで、この燃料を少しでも多く常備するのが、すごく重要な気がしていて。どうやってというより、なにに燃料を積んでいるんだろう? と。でもそれを直接質問するのは違うというか、ズルいという気がするんです(笑)。自分で見つけなきゃいけない気がしています。

──確かにいろんな俳優さんと、長期間に渡って接することになる演劇の稽古は、その絶好の場ですよね。

そうですね。最近は逆に、僕より年下の子たちと絡むことも多くなってきたし。役者に年齢はあまり関係ないと思うんですけど、先輩として自分から話しかけにいくようにしてるんですよ。今「人見知りやめようキャンペーン」中なので(笑)。そういうちょっとしたことができるようになっていくなかで、僕が見てきた先輩たちみたいになりたいと思います。

● 「ずっと『人見知りなんで』と言い訳をしていた」

──「人見知りやめようキャンペーン」はなかなかいい言葉ですが、もしかして個人事務所を設立したのがきっかけでしたか?

いや、その前からですね。僕はずっと「人見知りなんで」と言い訳をして、スタジオの休憩時間とかでも、別に人と喋らなくてもいいと思っていたんです。でも20代半ばになったときに「そういうのはどうなんだろう?」と思いはじめて。それで自分から喋ろうと決めて、今はだいぶ楽しくお喋りができるようになっています。

──人見知りの悩みを抱える人は多いと思いますが、なにかコツはあるんですか?

なんでもいいから話しかけることです。「今日は暑いですね」とかベタですけど、きっかけなんてなんでもいいんです。相手が集中しているとか、タイミングの問題はありますけど、基本的に話しかけられて悪い気持ちになることって、ほとんど無いと思うんで。「人見知りやめようキャンペーン」はオススメです(笑)。

かつては人とのコミュニケーションを「人見知りだから」と逃げていたという高杉

──そういう意味では『ゴチになります!』(NTV)の出演は、トークスキルを伸ばす絶好の機会だったのでは。

だいぶ鍛えられましたね。別にトークがおもしろくできるようになったわけじゃないんですけど、怖くはなくなりました。吹っ切れるというやつですかね? 自分が考えていることをもっと上手く言語化するようになりたいと思いましたし、人生経験としてはかなり大きなものになったと思います。

──今回の舞台のアフタートークも期待しています。では最後に、本作の意気込みを。

戯曲を読んで伝えたいことって、人によって違ってくると思うんですが、『ロミオとジュリエット』の台詞って、その気持ちをすごく後押ししてくれるような気がするんです。だから読む人が変われば、見つけ出した答えも大きく変わっていくと思うし、そうなったときに演じる役の「個」というのも、自然と変わっていくはず。魅力的なロミオを精一杯作り上げたいと思うので、楽しみにしてほしいです。

舞台『ロミオとジュリエット』は高杉のほか、藤野涼子、矢部昌暉、新原泰佑、三浦獠太、佐伯大地などが出演。演出は井上尊晶がつとめる。9月の東京公演を経て、大阪は9月29日~10月1日に「森ノ宮ピロティホール」(大阪市中央区)で上演。チケットは一般1万1000円ほか現在発売中。

舞台『ロミオとジュリエット』

期間:2023年9月30日(土)・10月1日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール(大阪府大阪市中央区森ノ宮中央1-17-5)
料金:一般1万1000円、学生5500円※22歳以下

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