胸毛にギャランドゥ!? 仏像のイメージ覆す…京都に大集合

奈良や京都などでいつも拝観している、従来の荘厳な仏像のイメージを大きく覆す展覧会『みちのく いとしい仏たち』が9月16日、「龍谷大学 龍谷ミュージアム」(京都市下京区)で開幕。クスッと笑ってしまう、ユーモラスな姿の仏さまが一堂に会する。

鬼形像ほか 正福寺(岩手県葛巻町) 中央のイキイキとした表情の鬼には、胸毛やギャランドゥも(第6章より)

■ なんだか癒やされる…その名は「民間仏」

ホッと癒されるかわいらしい姿の仏像は「民間仏(みんかんぶつ)」と呼ばれ、仏師の手によるものではなく、その土地の大工やお坊さんといった素人が制作した素朴な神像・仏像のこと。多くが江戸時代に制作されたものだという。

同展(巡回展)は長年に渡り、北東北3県(青森・岩手・秋田)の民間仏を調査・収集してきた須藤弘敏名誉教授(弘前大学・同展監修者)の調査成果を披露したもので、民間仏の大規模展としては日本初となる。

同展を担当する村松加奈子学芸員は、「従来の美術史では評価されてこなかった民間仏に光を当て、意義と価値を見直す展覧会です。民間仏は、その土地の信仰をダイレクトに伝えるもの」と力を込める。

全8章の展示構成で、なかには「ブイブイいわせる」(第5章)「やさしくしかって」(第6章)といった章もあり、ゆるい雰囲気が魅力。亡者の髪を引きずる地獄の鬼も胸毛やギャランドゥがあり、表情もなんだかコミカルだ。

■ グチも聞いてくれる、暮らしに寄りそう仏さま

十王像 三途川集落自治会(秋田県湯沢市) お雛様のように微笑み佇む日本で一番怖くない十王像(第6章より)

小さなお堂や祠、民家の仏壇や神棚にまつられてきたという「みちのく」(北東北)の民間仏の大きな特徴は、ニコニコとした笑顔。日々の暮らしに寄り添い、悩みやグチなども聞いてくれた仏さまだったという。

例えば、「おそらく、日本で一番怖くない十王像」と説明があった秋田県三途川集落の十王像は、地獄で亡者の審判をおこなう裁判官的な存在であり、本来は怖い顔をしているはずが、まるでお雛様のような佇まいで微笑んでいる。

東北には地獄に対する信仰があり、「どうせ地獄に落ちるなら、やさしくしかって欲しいとの願いを映しています」と村松さん。また、江戸時代の「みちのく」では、大人になれなかった子どもや赤子への追善のためにつくられた像もあり、穏やかで素朴な顔の向こうに厳しい時代背景も見えてくる。

巡回展となるが、京都ではオリジナル音声ガイドがあり、展覧会グッズとともに北東北の物産も販売される。素朴な仏さまたちの故郷を訪ねたくなるような旅情あふれる内容となっている。

同展は「龍谷大学 龍谷ミュージアム」にて、11月19日までの開催。時間は朝10時~夕方5時(最終入館受付は閉館30分前まで)、料金は一般1600円ほか。

取材・文・写真/いずみゆか

秋季特別展「みちのく いとしい仏たち」

期間:2023年9月16日(土)〜2023年11月19日(日)
時間:10時〜17時(10月6日、13日、20日、27日は~20時まで)
※最終入館受付は閉館30分前まで
休館日:月曜日(ただし、9月18日、10月9日は開館)、9月19日(火)、10月10日(火)
入館料:一般1600円、高大生900円、小中生500円 ※未就学児無料

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