佐藤春夫の妻、「幸せ」つづる 記念館発見、献身的看病の様子も

記者会見で、作家佐藤春夫の妻が内心をつづった手紙などが見つかったことを明らかにした実践女子大の河野龍也客員研究員(右端)ら=21日午前、和歌山県新宮市役所

 佐藤春夫記念館(和歌山県)などが作家佐藤春夫(1892~1964年)の遺族から寄贈された書簡を調べたところ、妻千代が献身的に佐藤を看病する様子を記したものや、「私はほんとうにしあわせに存じます」と内心をつづった千代の手紙が見つかった。記念館と実践女子大文芸資料研究所(東京)が21日、記者会見で明らかにした。

 千代は作家谷崎潤一郎の元妻で、佐藤と結婚した当初は「細君譲渡事件」として話題になっていた。実践女子大の河野龍也客員研究員は「知られていなかった千代の気持ちが分かる資料が見つかった。単なる恋愛スキャンダルではないという史実が見えてきた」と話した。

 佐藤が千代と結婚したのは1930年8月で、1カ月後の9月下旬に佐藤が脳出血で倒れていたことが判明。病気の影響で文字が書きづらい佐藤が、父豊太郎宛ての書簡で、自身が横になって手紙を書いている様子を絵にしていた。

 細君譲渡事件を受けて作品が売れなくなることを案じる豊太郎に、佐藤は「読者にしましてもそう程度の低い人ばかりでもありませんから、世評のために作品を顧みてくれないなどの事は一切御懸念御無用かと存じます」と返信していた。

作家佐藤春夫の遺族から寄贈された書簡=21日午前、和歌山県新宮市役所

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