【インド】ムサシがデルタ、豊通と合弁[車両] 電動二輪駆動ユニットを製造販売

電動二輪車と駆動ユニットとともに、記念撮影する武蔵精密工業、デルタ、豊田通商の関係者(武蔵精密提供)

ホンダ系の四輪・二輪車部品メーカーの武蔵精密工業は21日、電動二輪車向け駆動ユニットを製造販売するため、電子機器メーカーの台湾・台達電子工業(デルタ)および豊田通商との合弁会社をインドで年内に設立すると発表した。中国に並び世界最大級の二輪車市場であるインドをメインに、武蔵精密とデルタが共同開発した駆動ユニットを拡販。ケニアやタイ、ベトナムなどアフリカ、東南アジアへの輸出も視野に入れる。年産能力約10万個の1ラインでスタートし、2030年までに世界全体で年間供給約100万個を目指す。

武蔵精密などによると、合弁会社名は「ムサシ・デルタ・イーアクスル・インディア」。四輪・二輪車部品の製造販売を手がける武蔵精密のインド子会社ムサシオートパーツ・インディアのベンガルール(バンガロール)工場内に設立する。合弁への出資比率は、ムサシオートパーツ・インディアが51%、デルタが34%、豊田通商が15%——で、資本金は約16億ルピー(約28億円)。合弁の最高経営責任者(CEO)は瀬戸川健二氏が務める。従業員は当初約100人から生産個数の拡大に伴い順次増やす。

合弁が製造販売する駆動ユニットは、ギアボックスやモーターで構成し、後輪側面に取り付ける「サイドモーター」方式だ。最高時速は70~80キロで、「小型」「軽量」「静粛」といった特徴を持つ。年末または年明けにムサシオートパーツ・インディアのベンガルール工場内で生産を始め、24年3月から量産開始。年産能力を約10万個増やすごとに1ラインを追加し、状況に応じて新工場建設を検討する。

■搭載シェア、世界で3割弱目標

インドにおいては、武蔵精密の出資および協業先である地場振興BNC製の電動二輪車(24年2月発売)に駆動ユニットを搭載することが決まっている。このほか、BNCに限らず、インドの二輪車のボリュームゾーンに当たる排気量125ccをメインターゲットに、さまざまなメーカーへの駆動ユニット供給を目指す。一部の新興メーカーから声がすでにかかっているほか、インドの二輪車販売台数で2位のホンダ子会社とも協議中で、「将来的にぜひ使ってもらいたい」(武蔵精密の大塚浩史社長)という。

中長期には市場ニーズをみながら駆動ユニットのラインアップを拡充。インド以外の販売にも力を入れ、搭載シェアは世界全体の電動二輪車の新車販売台数のうち3割弱をとり、首位に立つことを目標にする。インドをはじめ世界全体の電動二輪車の普及をリードし、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現に貢献する。

今回の合弁は、武蔵精密とデルタが豊田通商の引き合わせで出会い、電動二輪車向け駆動ユニットの共同開発を4年前に始めたのがきっかけ。武蔵精密はギアボックス製造、デルタはモーター製造、豊田通商はアフリカをはじめとした販売網に強みがあり、3社それぞれが得意分野を生かす。

合弁会社が製造販売する電動二輪車向け駆動ユニット(武蔵精密工業提供)

■ムサシ「早期参入するため合弁」

武蔵精密、デルタ、豊田通商の3社は21日、東京都で記者会見を開き、武蔵精密の大塚社長は電動二輪車およびインド市場が「間違いなく大きくなる分野だ」と説明。「マーケットに早期参入するため、合弁という形をとった。スピード最優先で、マーケットが立ち上がる前に入り口から入ろうと思った」と話した。また、「最終的にはコスト競争力が強くないと市場で勝てない。立ち上げ当初こそ日本や台湾から調達する部品があるものの、インドで部品調達を強化していく」と語気を強めた。

デルタのインダストリアル・オートメーション・ビジネス・グループでゼネラル・マネジャーを務めるアンディ・リウ氏は会見で、「運輸機械は世界の二酸化炭素(CO2)排出量の23%を占める。協業により3社はそれぞれの強みを持ち寄り、高性能電動パワートレイン(動力機構)の開発・提供を行う。電動二輪車の普及に向けて貢献する」と述べた。

記者会見で説明する武蔵精密工業の大塚浩史社長(左から1人目)(同社提供)

■印政府「30年に二輪8割を電動」

世界各国が50年までのカーボンニュートラル実現を相次いで表明する中、温室効果ガスの排出量削減は重要課題だ。特に二輪車が生活の足になっている新興国において二輪車の排ガスは深刻な社会問題。クリーンな移動手段である電動車普及への期待が高まっている。

インドは中国に並び二輪車の世界最大級の市場で、インド自動車工業会(SIAM)によると22/23年度(22年4月~23年3月)の国内販売台数(出荷ベース)は1,586万2,087台だった。政府は30年までに二輪車の年間新車販売台数の8割を電動車にする目標を掲げているものの、足元は4%程度。伸びしろは大きい。インドでは、四輪車に先行して二輪車の電動化が加速し、電動二輪車の現地生産ニーズが増えている。

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