予期せぬ妊娠の女性たちと暮らすアメリカ人女性 「二度と妊娠できない体にする」と母親に非難された女性「ここで人を好きになれた」

『「0歳0ヶ月0日」死亡』という言葉をご存知でしょうか。生まれてすぐ後に、放置や遺棄で亡くなった赤ちゃんを指す言葉ですが、虐待で死亡する子どもの2割にも上ります。

そんな痛ましい出来事を防ぐため、予期しない妊娠に悩む女性と、生まれてくる赤ちゃんを、長年救ってきた人がいます。その女性の思いを取材しました。

あいさん(仮名・18)
「(母親に)育てる資格なんてないって何回も言われましたし、もう二度と妊娠できない体にするとも言われました」「私自身誰一人の支えもないのだろうなと思って(赤ちゃんと)一緒に消えようかなっていう」

いおりさん(仮名・26)
「親が虐待系…の人だったので、私は家族をつくらないって決めていて(それなのに妊娠してしまい)あれ、避妊していたのにっていう。どうしよう…」

予期しない妊娠で誰にも相談できず、住む場所にも困った2人の女性。この場所でおよそ5か月暮らし、今は救われました。

名古屋市中川区にある一軒家。アメリカ人宣教師、シンシア・ルブルさん(61)の自宅です。

シンシアさん
「困っている妊婦さんが一緒に住んでも良い場所。少しだけ手伝いたかった(来日した23年前)日本には何にもなかった」

23年前、アメリカ人宣教師として来日したシンシアさん。日本では予期しない妊娠をした女性が相談相手や住む場所に困っていることを知り、共同生活を送りながら安心して出産を迎えられる施設を作ったのです。

シンシアさん
「はい、もしもしライフ・ホープ・ネットワークです中絶ですか?妊娠ですか?」

毎日のように相談の電話が寄せられます。出産を希望し、住む場所に困っている場合、ここにホームステイさせています。

シンシアさん
「どういう状態ですか?どういう心配?今妊娠だったらどのくらい?何週目くらいかな?」

これまで80人以上、事情を抱える妊婦を受け入れてきました。

お腹の赤ちゃんと「一緒に消えよう」と考えた

取材で出会ったのがこの2人。あいさん(仮名・18)といおりさん(仮名・26)。

あいさん(仮名・18)
「ここに来て変わりました。『1人じゃないよ』と言ってくれる人がいて、生きなきゃと思った」

18歳のあいさん。1年程前、すでに離れた相手との妊娠が分かりましたが親の助けは得られませんでした。

あいさん(仮名・18)
「お母さんが働かなくて、お金を貸してというのが多くて…今ではもう20万円以上貸している、2人で暮らしていたときも私の財布から勝手に(お金を)取られた。ギャンブルとかタバコ、あとネット通販で(お金を)多分使っている。」「関係を切るしかないかなと思って、電話番号も変えて、次住む場所も伝えないという決断に至った」

区役所で生活保護の手続きを受けた際、ここを紹介されましたが、それまで行くあてもなく、思い詰めていたと話します。

あいさん(仮名・18)
「私自身誰一人の支えも無いのだろうなと思って(おなかの赤ちゃんと)一緒に消えようかなと」

誰にも相談できなかった妊婦が、生まれた赤ちゃんを遺棄したり殺害したりする事件は後を絶ちません。「0歳0ヶ月0日」死亡。生まれたその日に亡くなったことを意味しています。

国の調査では、児童虐待の死亡事例のうちおよそ2割は「0歳0ヶ月0日」で赤ちゃんが死亡しています。誰かの助けさえあれば、救われていたかもしれない命です。これについてあいさんは…。

あいさん(仮名・18)
「(気持ちが)わからなくもないなと思いました。自分ももし誰も相談できる人がいなかったら悪い道にいっていたかもしれない」

シンシアさん
Q(あいさんが)来たときのことって覚えていますか。
「すごく若くて、人間が嫌いだった。ここに来て…気持ちがはっきり変わりました。」

当時すでにここに入居していた、自分と同じ立場の女性と一緒に暮らす中で、産むことをポジティブに考えられるようになったといいます。

「生きている資格ない」と非難された選択

あいさん(仮名・18)
「12月に(私が来て)生活をする中でその人が12月に出産だった。ちょうど生まれて、育てている姿を見て、(自分も)手伝っていたら自然に愛着が沸いて、自分の子だったらもっと幸せと思ってそれで育てようと思った。奇跡だと思うので。本当になんだろう、生まれてきたことに感謝しています」

あいさんは、ことし3月に無事出産。ミルクもオムツも慣れた手つきで、1人前のお母さんです。

あいさん(仮名・18)
Q(あいさんにとって)ここってどんな場所なのでしょうか
「実家です、ここに来て良かった。笑うことも増えたし、人のことを好きになれた。自分が改めて本当に人として変われた」

シンシアさんは出産後、責任をもって育てることを強制はしません。26歳のいおりさんの場合がそうです。交際相手の子どもを妊娠して仕事を続けられなくなりここにたどり着きました。

いおりさん(仮名・26)
「親が虐待系の人だったんで、私は家族を作らないって、そう決めていてその血を継いでいるみたいな、虐待家の血を継いでいるみたいな」

ひどい虐待の経験から産んでも育てられないと悩む彼女が勧められたのが、産んですぐに育ての親の実の子として養子に出す「特別養子縁組」でした。しかし友人からはその選択を非難されたといいます。

いおりさん(仮名・26)
「母親になる資格ないし、そういう人は生きている資格ないね」

その言葉で体調を崩し、1ヶ月余りで26キロ痩せたといういおりさん。シンシアさんは彼女の選択を100%肯定します。

シンシアさん
「彼女が…(泣)すごく赤ちゃんのために苦しんだ。赤ちゃんのため、それをみんながわかってほしい。特別養子縁組をすることは大変な決心でも愛情の決心です。100%」

実はここを頼って来る人の4割は、同じように特別養子縁組を選んでいます。無理をさせない事は、何より生まれてくる赤ちゃんの幸せのためでもあるのです。

新しい生活へ「命は素晴らしい贈り物」

あいさんはこの日、県外にある生活支援施設に引っ越しです。行くあてもなく、1人でここへ来ましたがこれからは2人で新しい生活へ。

シンシアさん
「良い人生になるように。また来るでしょう?」

あいさん(仮名・18)
「行きます」

あいさんはシンシアさんに手紙を書きました。感謝の気持ちが英語でつづられています。

「5ヶ月間思いやりをありがとう。私の人生はシンシアさんに会ってたくさん変わった。」

そしてまた…

シンシアさん
「はいもしもし、ライフ・ホープ・ネットワークです。相手(の反応)はどう?とりあえず病院に行かなくてはいけないから一緒に病院に行きましょう」

毎日のように入る相談の電話。今も、3人が出産を控え、ここで暮らしています。

シンシアさん
「命は素晴らしい贈り物。住む場所がなくなったら是非ここに来てください連絡してください。喜んで助けます」

シンシアさんは今日も全身全霊、彼女たちを支えます。

© CBCテレビ