棋聖、王位で藤井七冠に挑戦 佐々木七段インタビュー 長崎・対馬出身 棋士は天職、「差」改善し次へ

「勝負を通して自分の課題が見つかった」と話す佐々木七段=長崎新聞東京支社

 今夏行われた将棋の第94期棋聖戦5番勝負と第64期王位戦7番勝負で、藤井聡太七冠(21)に挑戦した対馬市出身のプロ棋士、佐々木大地七段(28)が23日までに、長崎新聞社のインタビューに応じた。どちらも敗退したものの、それぞれ1勝を挙げ健闘した佐々木七段に、タイトル戦を終えての感想、今後の抱負などを聞いた。

 -初のタイトル挑戦となった棋聖戦に続き、王位戦でも挑戦者となり注目を集めた。戦いを振り返って。
 棋士になったからにはタイトル戦は皆が目指す場所。(挑戦は)うれしかったが、やはり大一番のプレッシャーもあり最初は戸惑いが大きかった。和服の所作も不慣れで、裾を踏んできれいに立ち上がれなかったりしたが、徐々に改善できて、より対局に集中できるようになった。和服はそもそも1着も持っていなくて、(棋聖戦に間に合うように)急いで作った。
 藤井七冠を相手にするということで準備期間でもプレッシャーがかかった。より深く、精度の高い研究をしなければ勝負できないと思った。
 
 -両戦で各1勝を挙げた。うまくいったところ、いかなかったところは。
 先手番では割とうまくいった将棋が多かった一方で、負けた将棋は中・終盤の力不足。途中までペースを握った時もあり手応えはあったが、後手番ではこれまで勝ったことがなかった。先手での藤井七冠の指し手は分かっていたが、それでも止められなかった。最初は真正面から受け止めようと考えたが、いろんな作戦を採用していこうと、王位戦からは「横歩取り」(将棋の戦法の一つ)などトリッキーな作戦を取り入れた。
 
 -藤井七冠の印象は。
 本当にバランスが良くて王道の将棋を指す。決して無理をせず自然な手を積み重ね、リードを奪っていく将棋が多い。無理攻めや成算のない激しい変化は選ばないので、非常に丁寧な将棋。

第94期棋聖戦5番勝負第2局で藤井聡太棋聖(右)に勝利した佐々木七段=6月23日、兵庫県洲本市(日本将棋連盟提供)

 
 -経験を今後にどう生かすか。
 横歩取りをタイトル戦で打って後手番でのレパートリーを増やせたし、勝負を通して自分の課題が見つかった。特に終盤での競り合いでは(藤井七冠と)差を感じた部分が多く、そこを改善していくことで、また次が見えてくると思った。

-2016年のプロ入り後、22年に七段昇格。今年は初のタイトル挑戦と順調にキャリアを重ねてきた。ここまで振り返って、印象に残る出来事は。
 19年に棋王戦の挑戦者決定戦に進んだが、後輩棋士に敗れてしまった。数少ないチャンスをつぶしたというのもあるし、トップ棋士でなく後輩に負けたのも痛かった。ただ、その後も変わらず勉強を続けることができて、今回それがいいタイミングで二つ(のタイトル挑戦として)実った。4年前と比べて成長できているという実感はあった。
 
 -将棋の魅力は。
 自由に(戦いを)組み立てることができて、いろんな指し手に可能性がある。20年以上指してきても、いろんな発見があるという奥深さかなと思う。ゲーム性の面白さと共に、対戦相手がいることで勝負事としての楽しさも大きい。
 
 -苦労もあるのでは。
 自分の弱さを実感することもあるが、全部自分で選んできた道。自分で決めてプロを目指して、なおかつ自分の指し手で責任を持つゲームなので、苦労は多くても自分に向いている。(棋士は)天職だと思っている。
 
 -趣味は。
 旅行、読書は昔から好き。タイトル戦では温泉地を巡ることができた。今後は海外にも行きたい。読書は直木賞作家の米沢穂信さんの作品がとても好き。タイトル戦が終わって落ち着いたので、沖縄に行ってスキューバダイビングの資格を取ろうと思っている。棋士はスケジュールの自由が利く職業なので、それを生かして(旅行に)行きたい。そういった意味でも「天職」だと思う。
 
 -長崎は自身にとってどんな場所か。
 対馬は新型コロナウイルス禍で4年ほど帰っていないが、長崎には年1、2回帰る機会がある。毎年、子どもの頃からお世話になっている人に会えるので、いい報告ができるようにという一つのモチベーションになっている。「ホーム」があるというのは、ありがたい。
 
 -今後の目標、抱負を。
 タイトル戦にまた出たいというのは、負けた直後にも思った。今回得たものを公式戦に生かしてリベンジしたい。ただ、藤井七冠がいるので以前タイトルを持っていた人たちと本戦で当たるようになり、その上にさらにラスボスがいる感じ。道のりは険しいが、藤井七冠の牙城を崩せるように精いっぱい努力して、何としても食らい付いていきたい。

色紙に「刻石流水(受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す)」と揮毫した佐々木七段。「いろんな人に支えられているので、恩義を大切にしたい」と語った=長崎新聞東京支社

 
 -長崎のファンへメッセージを。
 棋王戦(コナミグループ杯挑戦者決定トーナメント)で来月、豊島将之九段に当たる予定で、勝てばベスト4。4年前は挑戦できなかったので、今回は実現させたい。12月に長崎へ帰る予定なので、いい報告ができるよう頑張りたい。

【略歴】ささき・だいち 1995年対馬市生まれ。将棋を始めたのは3歳の頃。2008年、中学1年でプロ棋士養成機関の奨励会に入会。16年に四段昇格を果たしプロ入り。師匠は佐世保市出身の深浦康市九段。23年度の成績は21日現在22勝10敗で、対局数ランキング1位(32局)、勝数ランキング2位(22勝)、連勝ランキング1位(15連勝)。

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