「人力二輪車」の危うさ

 江戸時代の半ばには、交通安全に気が配られていたらしい。大八車などが引き起こす事故が“社会問題”となり、処罰が与えられた▲手で押したり、引いたりの二輪の荷車で大事故が起きるとは想像しにくいが、混雑する町なかでは死亡事故も多かったという。人力で動かす乗り物が危険と隣り合わせというのは、現代の人力二輪車-自転車でも変わらない▲21日に始まった「秋の全国交通安全運動」では、この4月から努力義務となった「自転車に乗る人のヘルメット着用」が重点の一つになっている。自転車の保有台数が少ない本県では無縁の話…と思われがちだが、平地が多い大村市などでは自転車を使う人も少なくない▲7月の全国調査では、ヘルメットの着用率は平均13%ほどで、長崎県は10%くらいだった。高い数字ではないが、長崎県内では昨年、自転車が絡む事故が100件近く起きている。3人が亡くなり、どれもヘルメットを着けていなかった▲自転車も見ようによっては、生活のすぐそばにある危険の一つと言っても言い過ぎではあるまい。「努力義務」という言葉のあいまいさが着用率の伸びを妨げていないか▲ほんの軽い接触も、転倒の打ちどころが悪ければ大事に至る。大八車が時に大事故を起こした江戸の昔から300年、危うさに大差はない。(徹)

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