佐世保の老舗菓子店「風月堂」 75年の歴史に幕 コロナや生活スタイルの変化で決意

「いろんな要因が重なった」と廃業を決意した大平社長=佐世保市、風月堂

 佐世保駅近くにある老舗の和洋菓子店「風月堂」が今月いっぱいで閉店する。新型コロナウイルスの影響や生活スタイルの変化、後継者問題、物価高騰など「いろんな要因が重なった」と大平茂利社長(67)。30日の営業で75年の歴史に幕を下ろす。
 1948年に父親の故・實人さんが長崎県佐世保市藤原町で創業し、55年に潮見町の国道沿いの商店街に移転。佐世保駅周辺の再開発に伴い、2000年から白南風町のエス・プラザで営業している。大平さんは東京で菓子作りの修業を積み、1983年から経営に加わった。父親が亡くなった後、2代目として歴史を引き継いだ。
 初代から人気の「鷄卵もなか」「長崎カステラ」「丸ボーロ」などの伝統を守りながらも新商品を開発。「昔や今の味を聞きながら、いろんな要望に応え、おいしいお菓子を提供することにこだわった。生活に潤い、幸福を与える仕事」。“対面販売”を大切にして、常連客や観光客に親しまれた。
 だが、コロナ禍で状況は一変。売り上げは半分ほどに落ち込んだ。法事や祭事などが自粛され、返礼のお菓子の需要も減っていった。「少子高齢化やコンビニの存在、SNSでの情報発信などで時代が変わった」。生活スタイルの変化も影響したという。

佐世保市潮見町の商店街で営業していた時代の風月堂(中央、大平さん提供)

 2人の娘には、将来の夢を優先させ、稼業を継ぐことは求めなかった。「潮時かな」。店頭に感謝の気持ちを記した廃業の知らせを張り出した。
 今月、ある常連客が「仏様に供えようと思って。亡くなる前に最後に食べたいと言っていた」と鷄卵もなかを求めて来店した。閉店を知り残念そうにしていたという。閉店を惜しむ声は多く、「世代を超えて愛してもらい、皆さんに支えられた。スタッフや家族も含め感謝の気持ちしかない」と感慨深く語る。
 店は閉めることになったが、菓子文化への情熱、職人魂は健在だ。長崎短大で地域共生学科製菓コースの非常勤講師を務めている。「スイーツの店をやりたいという子どもたちもいる。夢のある業界。文化を引き継ぐ人材を育てたい」と思いを語る。


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