「ご苦労様です」江戸時代から続く文化“お接待” 移住者にも受け継がれ

四国八十八ヶ所巡りの”ミニチュア版” 島遍路

約1200年前、弘法大師・空海が開創したと伝えられている「四国八十八ヶ所霊場」。全てを巡ると煩悩が取り払われ、願いが叶うとされている、総行程約1400キロの「四国八十八ヶ所巡り」は四国を代表する文化の1つだ。

一方で四国には、その”ミニチュア版”とも言われる”島遍路”という文化も存在する。

愛媛・松山市の沖合に浮かぶ興居島(ごごしま)。四国八十八ヶ所と同じく、島内に88の札所が設けられ、毎年4月20日と21日の2日間にわたって「島遍路」が行われ、”お遍路さん”と呼ばれる巡礼者が島内を回る。

江戸時代に始まったと伝えられ、約250年続く島の伝統はもはや春の風物詩。全て巡ると四国八十八か所の巡拝と同じご利益があると伝えられている。

人口約900人の小さな島に、2日間合わせて島の内外から800人ほどのお遍路さんが訪れるというから驚きだ。

「遍路道」は島民"手作り" お遍路さんをもてなす「お接待」も…

遍路道は島遍路の開催前、草刈りなど島を上げて準備するそう。中には、愛媛らしく「かんきつ畑」の間を縫って整備された道も。

また、道中「お接待」と呼ばれる、おもてなしが行われる。遍路道沿いの住民らがお遍路さんに食べ物や飲み物を振る舞うのだ。お接待には見返りを求める気持ちはなく、料金は取らない。

コロナ禍で4年ぶりにお接待が再開された一番札所の観音寺では、手作りの甘酒が振る舞われていた。檀家の女性は「隠し味は愛情」と笑う。

また、島民も住宅の倉庫を使った接待所を構えた。島で民宿を営む片山文夫さん(77)と、母・八重子さん(100)は30年以上、お遍路さんを迎えている。

例年、赤飯を炊いて振る舞っていたが、高齢化により今年からコーヒーやジュースなどの飲み物を手渡すようになった。

それでも、お遍路さんをもてなしたいという気持ちは変わらない。八重子さんが手を合わせて「ご苦労様です」と温かく迎えてくれた。

■片山文夫さん(77)
「毎年同じ人が来たり懐かしい人が来たり。(島遍路で)賑やかになった」

お接待の文化は島の移住者にも…

島の遍路道を歩いていると、古くも立派な屋敷の前を通りかかった。屋敷の門には「無料試飲できます」の看板と共に、ビールの瓶が…。奥から出てきたのが、南雲信希さん(42)だ。

南雲信希さん(42)
(Q.こちらは何の建物?)
「クラフトビールを作っている醸造所ですね。お接待は初めて。どんなものかと思って試しに」

以前は出身地の横浜で小料理店を営んでいたが、コロナ禍がきっかけで生活を見つめ直し、妻と2人の娘と共に去年、興居島に移り住んだ。

南雲さんの店「gogoshima beer farm」。築150年ほどの古民家を改装し、今年1月から本格的にビール造りを始めた。現在は愛媛県産のかんきつや小麦などを使った4種類のビールを販売している。

南雲信希さん(42)
「それこそお接待の文化なので外から来た人たちを歓迎してくれて良くしてくれますね」

島全体が温かなおもてなしに包まれる島遍路。江戸時代から続く春の風物詩は、新たな島民にも受け継がれ、これからも大切な文化として守られていく。

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