社説:経済対策の指示 またぞろ大規模補正か

 新型コロナウイルス禍で繰り返してきた大規模な財政出動を、さらに続けようというのか。

 岸田文雄首相が新たな経済対策の概要を発表し、10月中に取りまとめるよう閣僚に指示した。政府は裏付けとなる2023年度補正予算案を編成する。

 岸田氏は物価高に見合う賃上げの実現に重点を置くとしつつも、対策の5本柱として人口減少対策や国民の安心・安全、半導体などの国内投資を促す企業支援まで盛り込むという。

 自民党の世耕弘成参院幹事長が「少なくとも15兆円、できれば20兆円規模が必要だ」と求めているのに、呼応するかのような幅広さである。

 政府は6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」に「歳出構造を平時に戻していく」と明記したはずだ。先進国最悪の借金財政を顧みて立ち止まり、本当に必要で効果のある対策に絞らなければならない。

 賃上げ促進では、従業員の給料を増やした企業を対象に減税強化を想定するほか、労働者のリスキリング(学び直し)を後押しする。いわゆる「年収の壁」に関する補助金の新設も表明した。

 23年春闘で大手企業の賃上げ率は31年ぶりの高水準となったが、物価上昇に追いつかずに実質賃金は目減りが続いている。とくに厳しい中小企業や低所得世帯への重点的な支援が求められる。

 物価高対策では、年末までの継続を既に決めた電気・ガス代とガソリン価格の抑制策について年明け以降の対応を決めるという。

 ただ、経済指標の需給ギャップはプラスに転じ、需要が供給を上回っている。この状態で財政出動よって需要を拡大すれば、さらに物価を押し上げ、人手不足を深刻化させかねない。

 先の内閣改造・自民党役員人事は、低迷する内閣支持率の好転につながらなかった。衆院の解散・総選挙を念頭に、政権浮揚の材料として「規模ありき」のバラマキを繰り返すことは許されない。

 そもそも補正予算は、年度途中に緊急を要する支出のために編成すると財政法が定める。だが、コロナ禍の20年度に計73兆円と膨張して以降、21、22年度もそれぞれ30兆円を上回った。不要不急の事業も散見され、政府、与党、省庁とも財政規律の緩みが著しい。

 次世代にツケを回し続ける無責任な財政運営こそが、国民の将来不安や少子化を助長しているのではないか。

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