「声届いた」 対馬・核ごみ調査反対派歓喜 推進派市議は「議会軽視」

比田勝市長の意見表明を見詰める反対派市民。「受け入れない」との決定に涙を流す人もいた=対馬市議会議場

 人口約2万8千人の“国境の島”を揺るがした「核のごみ」を巡る議論は、対馬市長の政治判断によりいったんの区切りがついた。反対派市民は「声が届いた」「訴え続けてよかった」と喜び、涙を流す人も。一方、推進派市議は市長の決定を「議会軽視」と批判。今後の議会と行政の関係にしこりも残った。
 普段は閑散としている市議会の傍聴席は、熱気をまとっていた。50人を超える報道陣や市民らが詰めかけ立ち見がでるほど。誰もが比田勝尚喜市長の表明を、固唾(かたず)を飲んで見守った。
 正午過ぎ。比田勝氏が「調査を受け入れない」と述べると、傍聴席の市民は拍手して歓迎した。今年に入り、調査を巡る議論が表面化して以降、市民団体は署名活動など反対の意思を示し続けた。市長の表明を聞き、ハンカチで目を拭った小島加津恵さん(71)は「最初は反対派市議がたったの数人だった。議会での採決を、僅差に持ち込めたことが重要だった」と活動の“成果”をかみしめた。
 本会議が終わると、互いをねぎらい、一様に握手を交わした市民団体のメンバーたち。事前に準備した比田勝市長の「反対表明」を伝える手製の“号外”を、議場近くで買い物客らに配布した。
 同市では過去にも最終処分場誘致の議論が表面化した経緯がある。元市議の吉見優子さん(82)は2007年当時、議会の誘致反対決議に賛成した一人。市長の決定を歓迎しつつ「あの時一緒に頑張った議員の中に意見が変わった人がいるのは情けない」と嘆いた。
 しかし16年たって議論が再燃した背景には、歯止めのきかない人口減少など、先細りする、対馬の将来への不安があった。受け入れ促進を求める請願を出した建設団体の幹部は「対馬をよりよくしようとした上での請願だった。非常に残念だ」と肩を落とした。
 議会の請願採択を覆す格好となった比田勝市長。調査受け入れに賛成した小宮教義市議は報道陣の取材に「議会の意思決定を無にした判断で遺憾だ」と憤った。市民の意向が重要だとして「しかるべき時に、住民投票で結論づけをするのが本来の姿だ」と主張した。
 同じく賛成に名を連ねた春田新一市議は、市長の決定に理解を示しつつ、今後の議会と市長との関係を懸念した。「今まで通りとはいかないかもしれない」
 半年後に市長選が迫る対馬市。この日、立候補の意向を表明した比田勝市長は自らの決断により、核のごみを巡る問題に「終止符を打ちたい」と述べたが、他にも立候補を模索する動きがささやかれる。顔触れ次第では議論が三たび活発化する可能性もはらむ。
 「核のごみと対馬を考える会」の上原正行代表(78)は「市の条例に核のごみを持ち込まない条文を追加するなどして、こうした議論がもう起こらないようにしないと」と訴えた。

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