88年前の長崎くんち「川船」出演 亡き母の色褪せない衣装 「何らかで日の目を」 守り願う娘

かつて母が袖を通した衣装をいとおしそうに見つめる金井田さん=長崎市上西山町

 亡き母のたんすの中にあった着物は88年前、長崎くんちに出演した船大工町の「川船」衣装だった-。長崎県長崎市上西山町の金井田佳子さん(51)は7年前、急逝した母の遺品の中から見つけて以来、大切に保管している。船大工町が踊町を務める今年、「母が大切にしていた、くんちの思い出と共に、何らかの形で日の目を見ることができたらうれしい」と願う。
 金井田さんの母、藤原陽子さんは2016年11月、84歳で死去。その直後に見つけたのが、赤と黒のコイが泳ぐ姿が描かれた着物だった。昔ながらの手縫いで虫食いなどはなく、つややかなシルクの質感が時代を感じさせない。
 この着物に袖を通した幼い母と祖父鉄市さん(故人)が並ぶモノクロ写真が家にあった。裏側に「昭和10年10月 おくんち 踊町(船大工町)川船 陽子3歳」と書かれており、当時3歳の母が1935年、船大工町の川船に出演した際の衣装だと分かった。
 「おじいちゃんとくんちに出たとよ」。写真を見て、生前の母の言葉を思い出した。普段は多くを語らなかった母が、うれしそうに話していたからだ。
 第2次世界大戦の戦火や長崎原爆、長崎大水害などを乗り越えた、くんち衣装。「このまま捨てるのはもったいない。くんちが好きだった母の思いがつながってくれたら」。金井田さんは母に思いを巡らせ、多くの人の目に触れる日を待つ。

着物姿の陽子さん(右)と鉄市さん(金井田さん提供)

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