多国籍修行僧集う長崎・晧台寺 米出身のハーシュ僧侶 “垣根”越えたサポートに感謝の声

文化や言語の垣根を越えて修行に励むハーシュさん(中央)と外国人修行僧=長崎市寺町、晧台寺

 長崎市の観光名所、眼鏡橋から歩いて10分ほどの場所に世界各地から修行僧が集まる珍しい寺がある。江戸初期の1608年に創建された長崎三大寺の一つ、曹洞宗晧台(こうたい)寺。彼らはなぜ日本に、長崎にやって来るのだろうか-。同寺を訪ねた。

 晧台寺は共同生活をしながら仏道修行に励む僧堂を備える禅寺。曹洞宗には二つの大本山など全国に19の僧堂があるが、言葉の問題などで外国人修行僧を受け入れられる僧堂は限られる。
 「晧台寺と(岡山県の)洞松寺が多く受け入れています」。流ちょうな日本語でそう教えてくれたのは、米国出身の僧侶、ハーシュ霊峰さん(49)。英仏独日の4カ国語を操り、修行を積んでいる。晧台寺で外国人を受け入れられるのは彼の存在が大きい。外国人修行僧の一人は「霊峰は日本の歴史や文化を深く理解し、外国人の立場でアドバイスをくれる。(日常生活を含めて)彼がいてくれてありがたい」と話す。
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 ハーシュさんは40歳で来日し、来春で10年目を迎える。禅との出会いは、人生について考えていた16歳のころ。手に取った哲学書に坐禅(ざぜん)のイラストが描かれていて、部屋の中で試しにやってみると、心が落ち着いたという。禅の教えに感銘を受け、米国や欧州で修行した。来日後は熊本県や福井県などの禅寺を経て、2017年から晧台寺の齋藤住職(80)に師事。現在は国籍問わず、後輩を指導する立場になった。
 坐禅を基本とする曹洞宗の教えは「ZEN」として世界に広がっている。ハーシュさんによると、晧台寺ではこの5年間に米国、イタリア、フランス、スイス、ドイツなど、さまざまな国から延べ17人の修行僧を受け入れた。期間は3カ月や1年以上、中には2回目の人も。年齢は日本人修行僧よりも高めで「伝統を重んじ、熱心で真面目な人が多い」(齋藤住職)。
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 同寺を訪問した7月下旬には、4人の外国人修行僧が日本人と寝食を共にしていた。
 「よく『空気を読む』って言うでしょう。でも空気の読み方は国によって違うんです」とハーシュさんは笑う。文化や言葉の違いから苦労もあるが、11カ月間修行を積むアルゼンチン人男性(41)は「日本人の勤勉さなど学ぶことが多い。貴重な経験」。3カ月目のコロンビア人男性(33)は「坐禅は何かの目的のためにやっているわけでない」と無の境地を黙々と目指していた。
 齋藤住職によると、帰国前には長崎原爆資料館などに連れて行き、長崎の歴史にも触れてもらっている。齋藤住職は言う。「人種や言葉、キャリアの垣根を越え、一緒に学ぶことに価値がある」。多国籍の修行僧たちは今日も坐禅を組み、自分と向き合っている。


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