社説:ジャニーズ改名 被害の救済、全容解明を

 すでに300人以上が性被害を申告していることが、半世紀に及んだ創業者の性加害、児童虐待の罪深さを浮き彫りにしている。補償や心のケアを含め、被害者救済に手を尽くさねばならない。

 芸能大手ジャニーズ事務所は、17日に社名を変え、被害者への補償終了後に廃業すると発表した。タレントのマネジメントは1カ月以内に設立する新会社で担うとした。双方の社長はアイドルグループ「少年隊」として活動した東山紀之氏が兼務するという。

 同事務所は9月7日の会見で、創業者のジャニー喜多川氏(2019年に死去)による性加害を初めて認めた。喜多川氏の名を冠した社名は変えないとしたが、所属タレントを広告に起用する企業や放送局から批判が高まり、方針転換に追い込まれた形だ。

 8月末に外部専門家が公表した調査報告書では、喜多川氏がおよそ50年にわたってタレント起用の権限を悪用し、「数百人」ともされる少年に性加害を繰り返してきた事実を認定した。隠蔽(いんぺい)し続けた事務所には「解体的出直し」を求めていた。

 東山氏は「社名を残すのは内向きだった」と反省したが、後手に回った感が強い。一方、ジャニーズの名を消すことで幕引きに向かうことは許されない。

 事務所の被害者救済委員会には、325人が被害に遭ったとして補償を求めている。すでに半数近くの在籍を確認したとするが、喜多川氏の個人的な勧誘で被害を受けた例も少なくないようだ。まだ声を上げられない人もいよう。誠実に個々の経緯に向き合い、救済漏れがないようにすべきだ。

 証言を積み上げ、喜多川氏の性暴力の全容を明らかにする責務もある。性被害やセクハラの訴えが絶えない芸能界の膿(うみ)を出さねば、真の再発防止につながるまい。

 東山氏の社長兼務や、喜多川氏のめいの藤島ジュリー景子前社長が改名後も100%株式保有を続けることには懸念も残る。透明度が高く、なれあいに陥らない企業統治体制を整えてもらいたい。

 所属タレントの起用を見直す企業の対応は、人権侵害を起こした企業との取引をコンプライアンス(法令順守)違反とみる国際潮流を踏まえたものである。

 一般企業の対応に比べ、番組に起用を続ける放送局の説明不足が目立つ。新規の出演依頼は当面見合わせるとしたNHKも含め、喜多川氏とのやりとりや事務所からの圧力などの検証が必要だ。

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