絶滅の危機を超えて…生まれ変わる“令和の銭湯” 料金引き上げも苦しい物価高=静岡

かつては人々のコミュニケーションの場としてにぎわっていた銭湯が苦境に立たされています。円安などの影響で物価が高騰する中、10月から静岡県内の銭湯は入浴料金の上限が引き上げられました。すでに絶滅の危機にある銭湯ですが、生き残りをかけて大きな変貌を遂げています。

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<滝澤悠希キャスター>
「焼津市の銭湯です。非常にきれいな浴槽で、ゆったりと源泉かけ流しの温泉を楽しめます」

焼津市内の住宅街にある「焼津温泉元湯なかむら館」。2年前の大規模なリニューアルを経て「進化系銭湯」に生まれ変わりました。

<客>
Q.何を食べている?
「ワッフルです。おいしいです」

銭湯に併設されているのは地産地消カフェ。マグロが豪快に盛られた定食に…、静岡県内の養鶏場のたまごを使ったプリンのパフェを提供するなど、新たな魅力が広がる施設になっています。

<焼津温泉元 湯なかむら館 植田正樹社長>
「利用者の方々が求めるものも変わっていると感じる。ここにしかないものを作ることが、お客様に来ていただく一つの要素になる」

なぜ、ここまで大幅な変化をとげたのか、背景にあるのは物価高と高齢化です。

かつては地域の住民が集う憩いの場として愛されてきた銭湯。今回、料金に関するルールが変更されました。

<滝澤悠希キャスター>
「県内の銭湯の入浴料金、10月からその上限が450円から490円へと引き上げらました」

銭湯は住民の衛生を守るため必要な施設であるとして、県が入浴料金の上限を一律に決めていますが、10月から12歳以上の大人の金額について490円に改定。(スーパー銭湯などは除く)

元湯なかむら館は今回のルール変更に伴い、入浴料金を490円に引き上げました。

<滝澤悠希キャスター>
「今回、銭湯の値上げが認められたわけですが、その背景には業界が抱える切迫した事情があります」

熱海市の「山田湯」。懐かしさを感じさせるタイル張りの浴場は、地元の常連客の癒しのスポットです。

<地元の入浴客>
Q.よくいらっしゃる?
「ほぼ毎日来ている。昭和時代にタイムスリップしたような感じでうれしい」

山田湯は入浴料金をここ15年ほど、300円で維持してきました。一人で切り盛りする山田さんは「お客さんのために」と値上げをこらえてきましたが…。

<山田湯 山田松子さん(84)>
「ガスの値段がものすごく高い。収入のほとんどが光熱費にいく。カツカツでもやっていければやっていきたいと思うが、どうしても値上げせざるを得ない時が来ると思う」

県内の銭湯の数は、ピーク時の1960年代、300軒を超えていました。しかし、近年は燃料費の高騰や経営者の高齢化のため、廃業するケースが相次ぎ、現在、生き残っているのはわずか10軒です。

一方で、銭湯の“新たなあり方”を模索する施設もあります。

<滝澤悠希キャスター>
「ここは沼津市の休業中の銭湯です。現在お湯などは張られていませんが、“ある形”で活用されているんです」

1881年頃に創業した沼津市の「吉田温泉」。2016年から休業状態が続いていますが、地元の作家や画家、子どもたちによる現代アート展など、ノスタルジックな空間を生かしたイベントを不定期で開催。銭湯の持つ魅力を伝える施設として、機能しています。

<吉田温泉を管理 兼子京子さん>
「色々な人に来てもらって、まずこの場所を見てもらいたいのが一番。レトロな空間に癒しを求めてきてくれる人をもっと増やしたい」

時代の変化とともに多くの銭湯が姿を消しましたが、生き残りを図る各施設の取り組みは、私たちに新たな選択肢を示してくれています。

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