坂本龍一さん、満員魅了 山形国際ドキュメンタリー映画祭・アジア初、最後のソロ演奏記録で幕開け

入場整理券を求めて、ロビーを埋め尽くすほど長蛇の列ができた=山形市中央公民館

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2023は5日、山形市で始まり、オープニング作品で、今年3月に逝去した音楽家・坂本龍一さんの最後のソロ・コンサートを記録した「Ryuichi Sakamoto―Opus」がアジア初上映された。県内外から訪れた人で会場の同市中央公民館ホールは満員。久しぶりの通常開催となった祭典の幕開けに世界的音楽家の話題作が花を添え、早速映画ファンが見入った。

 本作は坂本さんががん闘病中だった昨年9月に撮影され、先月のベネチア国際映画祭でプレミア上映され注目されていた。山形映画祭事務局には多数の問い合わせがあり、混雑を避けるため開会式では初となる入場整理券の配布を行った。

 配布開始の同日正午を前に会場には大勢が列を成した。先頭の山形市本町2丁目、嘱託職員奥山エリカさん(60)は坂本さんのファンで、午前9時前に訪れた。「山形で見られるせっかくのチャンス。映画祭は参加したことがなく、いい機会」。整理券を得るため出発を早めたという京都大修士2年中村洸太さん(25)=京都市=は「この作品もそうだが、多彩な新作が楽しみ」。用意した350枚は40分ほどでなくなった。

息子の空音央監督「来られて光栄」   上映前に坂本さんの息子で監督を務めた空音央(そらねお)さんが舞台あいさつに立ち、「友人が目を輝かせて山形映画祭のことを話すのを聞いて、ずっと行きたいと思っていた。念願がかなって本当に光栄。坂本本人も社会性、芸術性の高い映画が好きだったので、ここで一緒に見たかったと思う」と語った。モノクロームで渾身(こんしん)の演奏と坂本さんの息づかいを捉えた作品が終わると、観客は余韻に浸りながら大きな拍手を送った。

 山形市小白川町1丁目、主婦羽田茂穂さん(58)は「彼の音楽や心の動きが美しい旋律で表されており、追体験したような気持ちになった。今までドキュメンタリー映画を見なかったことがもったいなかった。期間中は体力の続く限り見て回りたい」と話した。映画祭の加藤到副理事長は「これだけ注目され、多くの人に来ていただき、うれしい悲鳴。これから上映される作品への波及も期待したい」と願った。

舞台あいさつを行い、作品への思いを語った空音央監督

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