●超高齢化社会のアイテムに/食事や排せつ、全て対応
●ビッグデータ収集、異変見逃さず
石川県立看護大(かほく市)が来年度、寝たきり高齢者らの生活を支援するAI(人工知能)車いすの開発に乗り出す。従来は食事や排せつ、床ずれ防止など、それぞれの目的に応じた車いすが使われていたが、すべてを兼ね備え、遠隔での看護も可能にする。深刻化する超高齢化社会を見据え、生活全般を支える車いすの開発は寝たきりの減少や介護、医療費の軽減につながると期待される。
●共同研究で12日協定
開発は県立看護大とスポーツ・健康用品製造のモルテン(広島市)が共同で行う。同社は共同研究費として5年間で計1億7500万円を出資。大学に新たな研究講座「ウェルビーイング看護学」を設ける。同大とモルテンは12日、共同研究に関する協定を締結する。
同大によると、高齢者の療養生活はベッドで寝たきりになるか、車いす生活を強いられることが多い。いずれも活動量が少なくなり、食事や排せつもままならず、悪化するケースも少なくない。
このため、開発する車いすは移動、食事、排せつ、睡眠といった生活全般に対応できるようにする。誤嚥(ごえん)を防ぐため頭部の角度調整、床ずれを防ぐリクライニング・体圧分散、足のむくみを解消する「フットレスト」の機能も備える。
さらに、脱水や誤嚥性肺炎、体圧などを検知する生体・環境センサーを備え、医療機関や訪問看護ステーションが遠隔で利用者の状態を把握する。AIを活用して、利用状況はビッグデータとして収集して分析、体調の異変や悪化の兆候を見逃さないようにする。
県立看護大の真田弘美学長が東大教授時代、モルテンと体圧を検知するマットレスや、東京パラリンピック・車いすバスケットボール用のクッションを開発していた縁で共同研究が決まった。
新設される研究講座では、教授にかほく市出身の松本勝看護大准教授(成人看護学)が就く。松本准教授は「AI車いすによって、在宅療養者が最後まで尊厳を持って自立できる療養環境を提供したい」と話した。
★超高齢化社会 石川県内の65歳以上の高齢化率は昨年10月1日時点で30.5%となっており、珠洲市52.2%、能登町51.4%、穴水町50.0%、輪島市46.9%と奥能登地区で特に高い傾向がある。国の推計によると、65歳以上の人口は現在の約3600万人から2040年に約3900万人とほぼピークに達し、高齢者の療養環境の維持、充実が課題となる。