J-TAP Group・片寄学代表 単独インタビュー ~伴走型の課題解決が導く事業再生~

中小・中堅・ベンチャー企業向けのM&Aや事業承継、事業再生、税務などを手掛けるコンサルティングファームの「J-TAP Group」。経営や財務支援の(株)J-TAPアドバイザリー(TSR企業コード:300278268、千代田区)と、会計・税務支援のJ-TAP税理士法人(TSR企業コード:015433463、千代田区)が連携することで多様な企業支援を実現している。
東京商工リサーチ(TSR)は、両社の代表を務める片寄学(かたよせ まなぶ)氏に事業再生やM&Aなどの動向を聞いた。


―J-TAPグループ設立の経緯は

学卒後、新日本監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)に入所した。金融部に配属され、金融機関やPE(プライベートエクイティ)投資会社、ファンド向けの業務に従事した。その後、中小・中堅企業に対する事業再生やM&Aのアドバイザリーを手掛け、私的整理局面での事業・財務・税務DD(デューディリジェンス)、事業計画の策定支援、スポンサー探索を含む再生型M&A支援、組織再編や債権放棄を伴うストラクチャー組成、バリュエーション、事業計画の実行支援など多数の案件に関与した。業種は、製造業や卸売業、小売業から医療法人や学校法人なども手掛けた。
2012年、監査法人在籍中に東日本大震災の公的な復興ファンドの投資担当となり、債権買取の検討、検討前提となるモデリングなどの仕組み作りを常勤で半年間手掛けた。
事業再生やM&Aなどの経験を積んだが、いわゆるBIG4では、例えば報酬面や「(クライアントに)どこまで寄り添えるか」など限界もある。経営課題の解決を事業者に寄り添って行いたいとの思いで、2013年に独立して、J-TAPアドバイザリーを設立した。

―多方面での支援体制を整備した背景は

事業再生やM&Aは事業計画など将来の数字も扱う。コストを抑えながら中小企業の経営を見える化するためには、業績を把握する管理会計と税務会計が一致する仕組みが大事だと思い、税理士法人も始めた。
設立から10年を経過し、J-TAP Groupには約20名の従業員が在籍している。会計士や税理士、投資銀行や再生・戦略系コンサル出身者などが揃い、幅広い業務への対応が可能だ。M&Aと事業再生、CFO型の税務顧問サービスを展開している。
上場・非上場に関わらず、中堅・中小企業の悩みや課題は取引ベースであり、必要な機能は多分野に渡る。特に、M&Aや事業再生は会計税務だけではなく、事業・法務・財務の見識が必要となる。J-TAPグループの特徴は、M&Aや事業再生の局面で、事業面から会計、税務、法務、財務支援まで対応できる点だ。
独立のきっかけとなった「事業者に寄り添った伴走型」を通じた課題解決を行っている。大手プロフェッショナルファーム出身の若いメンバーで構成しており、高い専門性を維持し、お客様の課題を解決する対応力も強みで、こうした点を金融機関に評価していただき、M&Aや事業承継、事業再生の案件を紹介頂いていると思う。これらは、お客様にとって一生に一度あるかないかの状況に寄り添うことができ、非常にやりがいがある仕事だと思っている。
事業再生支援で、こだわっているのが現場主義だ。特に重視しているのは、現場層の認識している課題感で、マネジメントと現場層の互いの認識の相違が大きい場合には、会社の成長を阻害する典型的なケースとなる。
社員のモチベーションも重要だ。よく社長から「うちの社員は全然ダメ」ということを耳にする。これは典型的な業績が良くない会社のパターンだ。社長の姿を従業員はどこかで見て感じている。それでは社員のやる気が出るはずがない。社長個人の能力が高ければ高いほど、「自分の普通はみんなの普通ではない」ことを認識できない状況に陥りがちだ。

インタビューに応じる片寄代表

―事業再生の本質的な取り組みは

事業再生は病人の治療、つまり外科と内科に例えられる。民事再生、債権放棄などの債務整理、リストラ、資産処分などのBS(バランスシート)の改善は「外科」、売上拡大、経営管理体制の強化、組織の活性化等のPL(損益計算書)の改善は「内科」だ。
債務整理という外科手術を施して一時的に財務の状況を改善させるだけではなく、多少の外部環境の悪化があろうと、継続的に稼いでいく力をつけて、始めて事業が再生したと言えるのではないか。
我々は、企業がこうした力をつけるために、経営管理体制の強化、売上拡大支援、組織活性化のための人事制度改革等あらゆる角度から伴走する。つまり、外科治療も緊急時には重要だが、中長期的には内科治療がもっとも重要だというスタンスだ。
PL改善の手法として、3点を重視している。①現場からの情報収集分析、②業界のスペシャリストからの情報収集分析、③マネジメント層や幹部候補者の意識面へアプローチ。
具体的には、現場担当者へのインタビュー、全社員向けのモチベーションに関するアンケートの実施、業務現場で使われている紙媒体、社内データベースに眠って利用されていない販売・顧客・在庫データ等の分析などを実施して、強みや課題に関する情報を収集分析する。また、業界のスペシャリストのインタビューを通じて業界スタンダードや勝ちパターンに関する情報を収集分析する。
マネジメント層や幹部候補者へ収集した情報や分析結果に基づいて、危機感の醸成、問題提起をする。一方で、課題解決方法の視点やツールを提供することで、改善施策実行への意欲を喚起していきながら、PL改善に向けた戦略や改善施策を伴走しながら考えていくこととなる。
このように事業・財務DD業務を実施して事業再生計画を作成し金融支援を受けるだけではなく、実際に経営課題を解決しPLを改善していく。

―取り組み事例は

社名は明かせないが、弊社で取り組んだ典型的な経営管理体制の強化の事例をあげると、年間売上高10億円程度のプラスチック射出成型製造業者の支援実績がある。過去儲かっていたが、大口得意先からの利益率の高い取引が大きく減少、また売上減少を穴埋めするために不採算取引を受注したことにより、大きな赤字になった。
これは、営業部、製造部及び経理部が連携して適切な見積もりを作成できていなかったことにより生じた。営業部は過去の利益率の高い取引目線で、製造部や経理部から十分な原価情報を収集せず、見積もりを作成していたため、小口の利益率をある程度確保できて閑散期の稼働を埋める取引を受注してこなかった。また、大口得意先からの売上減少を穴埋めするために、不正確な見積もりに基づき、大口の不採算取引を受注したため、赤字幅が大きくなった。
本来は、工場の稼働率を含む原価情報を製造部、経理部及び営業部で共有し工場の稼働に応じて適切な見積価格を提出し受注をしていく必要がある。例えば、当たり前だが、工場の稼働率が100%であれば、材料費、外注費、直接作業コスト、運賃等の変動費、製造固定費、販管費の総コストを回収できる値段(営業利益ベースの見積もり)で受注しないと赤字になる。
一方で、工場の稼働率が低いときには、総コストを回収できなくても変動費を回収できる値段(貢献利益ベースの見積もり)であれば、受注して固定費を一部でも回収できるという考えが適切な場合もある。
弊社は現場の資料確認や現場担当者のインタビューを通じて、定量的かつ定性的に赤字要因を把握し、マネジメント層や幹部候補者に示して危機感を醸成していく。また、経営者の勘や受注ありきではなく、数字できちんと見えるようにして、今の稼働率だったらこの値段でも受注可能というと受注判断や営業ができるような体制を会社に伴走しながら構築していく。
本件は弊社の関与により、マネジメント層が赤字要因を的確に捉えられたことや課題解決方法を理解することを通じて、改革に前向きとなり、社長、営業部、製造部、経理部、弊社で構成される業務改革プロジェクトチームを組成した。
その中で、短期的には大幅な固定費の削減に加えて、採算把握体制や見積体制を見直して大口不採算取引の撤退、貢献利益を確保できる小口取引を積み上げて閑散期の売上確保等を実施することで、収支をトントンまでもっていった。その後は、貢献利益ベースから営業利益ベースの見積もりに修正し、価格交渉や新規受注をしていくことで、黒字化に成功した。

支援内容を説明する片寄代表

また、宴会売上が大きく減少したビジネスホテルのケースでは、宴会の営業戦略・営業スケジュールの策定、営業資料の作成、営業への同行などの支援をした。コロナの影響で売上が大きく減少した飲食業者には、FCオーナー向けの営業資料・契約書を含むフランチャイズパッケージの見直し、FCオーナーの紹介等、弊社担当者が実際の現場に入って改善活動を支援していく場合もある。

―コロナ禍で変わったことは

コロナの影響を受けて、大きく売上高が減少し、赤字に至った中小・中堅企業も多かった。ただ、補助金、助成金、制度融資などの手厚い公的支援があったので、一時的には事業再生の案件件数は減った。しかし、足元では、コロナによる事業へのダメージが完全に癒えていない中でコロナの補助金、助成金がなくなり、制度融資の返済が開始されることで資金繰りが悪化する中小・中堅企業が増えてきたため、案件件数は大きく増加している。
また、2022年3月に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」や「中小企業活性化パッケージ」が公表され、中小企業の私的整理の枠組みが整理され機能が強化されている。今後、実務が積み上がっていくことになると思うが、資金繰りに窮した中小企業に早急に対応していく必要があるという観点からは、関与する債権者、公的機関、専門家には、今まで以上に柔軟かつ迅速な対応が求められると思う。
M&Aでは、一部の買主の姿勢が慎重になった。これまでの経験を根底から崩したコロナ禍が自社の事業ポートフォリオのリスクや強みを見直すきっかけとなったのだろう。そのため、コロナ禍当初はM&Aプロジェクトがストップしたこともあった。一方で、割安に買収できると考える買主もいるため、足元ではコロナ前と比べて案件数は大幅に増加している感覚を持つ。上場企業も含めてリスク分散や本業強化のための自社の事業ポートフォリオの見直しを実行するためにM&Aもコロナ前と比べて加速している印象だ。

―適時開示で「J-TAP」の名前をよく見る

弊社はM&Aを中心に上場企業のお手伝いもしている。弊社のM&A業務の特徴としては、財務・税務DDやバリュエーションだけではなく、ソーシング・ストラクチャリング・エグゼキューション等M&A業務の全体をプロデュースしていくFA(フィナンシャルアドバイザリー)業務に力を入れていることがあげられる。加えて、各分野における高い専門性を維持しつつ、お客様に寄り添って課題を解決していく対応力をご評価頂いている。
最近では、決済代行などを手掛ける(株)メタップス(TSR企業コード:297208039、元東証グロース)が2023年2月に開示したMBO案件で、メタップス側のFA及び第三者算定機関として関与した。5月には人材派遣業の(株)コンフィデンス(現(株)コンフィデンス・インターワークス、TSR企業コード:300646470、東証グロース)と(株)インターワークス(TSR企業コード:292908997、元東証スタンダード)の合併案件で外部の有識者として特別委員会のメンバーに入るなど、上場企業のM&AのFA業務を多く手掛けている。このため、露出も増えてきている。


アフターコロナで再生を模索する中小企業は増えているが、ノウハウ不足がネックになっている。J-TAP Groupは大手監査法人やコンサル会社では難しい伴走支援型の事業再生支援やM&A支援で実績を伸ばしている。
上場会社から中小・中堅企業まで使えるコンサルティングファームのニーズは、今後ますます高まるだろう。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年10月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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