社説:岸田首相3年目 政権延ばす思惑しか見えぬ

 岸田文雄政権が3年目に突入した。

 ここにきて目立つのが、衆院の解散・総選挙と来秋の自民党総裁選を有利に運び、「長期政権」を狙おうとする思惑だ。

 防衛費の「倍増」や「異次元」の少子化対策の財源が定まらないまま、「減税」を含む大規模な経済対策の作成を指示している。新型コロナウイルス対策で膨張した財政を「平時」に戻し、「健全化」を目指すという目標はどうするのか。整合性がまったく見えない。

 岸田氏は2年間を振り返り「一つ一つ正面から向き合い、決断して実行してきた」と語った。だが、米国や自民党派閥への配慮を重んじ、長期的な視点を欠いた、場当たりとしか思えない判断が目に付く。

 必然的に中身のない「丁寧な説明」の繰り返しに陥り、国民の共感は広がらない。支持率低迷の大きな要因ではないか。

 真摯(しんし)に国民と対話する覚悟を固め、支出と負担の全体像を明確にした上で、政策の軌道修正もためらうべきではない。

 岸田氏の政治手法を象徴するのが、安全保障と原発だろう。

 昨年来日したバイデン米大統領に、戦後日本の安保政策を大転換する方針を「約束」した。防衛費の倍増と「反撃能力」の保有だ。年末には安保戦略改定に盛り込み、国会では「手の内は明かせない」とまともに答弁せず、関連法を成立させた。

 過酷事故を受け、歴代政権が「可能な限り依存度を低減する」としてきた原発も、推進派が大半を占める有識者会合を盾に、新増設へと反転させた。

 岸田氏は「安倍晋三政権もやれなかったことをやった」と自賛しているようだが、数々の懸念を置き去りにし、自らの「決断」をアピールする姿勢は独善的な実績作りとしか映らない。

 対照的に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民の関係清算や、マイナンバー制度を巡る混乱対応は、矢面に立つのを避ける場面が多い。

 看板政策とする「新しい資本主義」は、再分配による格差是正が期待された。しかし、そのための金融所得課税の強化などは見送った。コロナ禍に便乗した公費のばらまきや、「持てる人」に向けた資産運用の優遇策ばかりが際立っている。

 岸田氏や自民党は「税収増を国民に還元する」として、減税も検討し始めた。防衛増税などの負担から国民の目をそらしたいようだ。税収はすべて使い、足りずに借金を重ねていることは棚上げするのか。政権維持のために国家財政を私物化するような振る舞いは許されない。

 20日開会予定の臨時国会や、22日投開票の衆参補欠選挙などの動向をにらみつつ、来年にかけて岸田氏は衆院解散の時期を探るとみられる。このまま自らの保身を優先し続けるなら、有権者のしっぺ返しを受けよう。

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