【ベトナム】【日越50周年】「ハオハオ」を世界の商品に[食品] 日系発の即席麺、次の挑戦

ハオハオブランドチームの商品開発会議の様子=ホーチミン市タンフー区、9月

【第1回】即席麺「ハオハオ(Hao Hao)」を知らないベトナム人はまずいない。日系食品大手エースコックが2000年にベトナムで売り出し、今ではベトナムの即席麺市場でシェア4割を占める同社の看板商品で、売り上げの半数以上はハオハオが占める。国内の即席麺市場では不動の地位を確立し、今後は海外展開を視野に入れる。「ハオハオをグローバルブランドに」——。日系企業が生んだ「ベトナムの国民食」が、新たな挑戦を見据える。

ベトナム南部ホーチミン市郊外にあるエースコック・ベトナム本社では、朝から続く商品企画会議が白熱していた。「ハオハオを、バインミー(ベトナム風サンドイッチ)やフォーのようなベトナムを代表する食べ物にしたい」。ハオハオブランドチームの責任者、グエン・トゥー・ホアン・ティエンさんが熱っぽく語る。

会議のテーマは「ハオハオの世界進出(Hao Hao Goes Global)」だ。ベトナムで国民的即席麺ブランドの地位を確立した中、次の目標は海外市場への展開だ。

現在はアジアや欧米など約40カ国に輸出販売しているが、将来的にはさらに輸出先を拡大していく計画だ。これまでは、各国に在住するベトナム人が主なターゲットで、ベトナムで生産する商品をそのまま輸出してきた。今後はその国に合わせた味付けの商品を展開し、その国の国民に受け入れられるその国の商品に育てていく計画だ。例えば、インドネシアやマレーシア、中東などではムスリム向けに原材料に豚肉を使わない商品の展開を検討している。

■「ベトナムといえば、ハオハオ」に

ホーチミン市内のユニクロに並ぶ「ハオハオ」のTシャツ=同市1区

まず取り組んでいるのが、ブランド認知度の向上だ。

「ベトナムといえば、ハオハオ」というイメージを広めるため今年、ファッションブランド「ユニクロ」とコラボして、ハオハオの「トムチュアカイ味(酸っぱ辛いエビ味)」のピンク色のパッケージをデザインしたTシャツの販売を始めた。外国人の旅行者やベトナム在住の外国人に訴求するための施策も続けている。

世界ラーメン協会によると、22年の即席麺の世界総需要は前年比2.6%増の1,212億食と過去最多を更新した。新型コロナウイルス禍に急伸して以降も着実な伸びが続いており、ハオハオが浸透できる余地は十分にあるとみる。

■現地調達のために技術支援

これまでの道のりも挑戦の連続だった。

エースコック・ベトナムは1993年設立で、工場は95年に操業をスタート。当時から高品質の商品で高い評価を得ていたものの、競合メーカーの即席麺と比較して3倍近い価格がネックとなり、当初5年ほどは赤字経営が続いた。

2000年頃になると、ベトナムの工業化・近代化による設備面の向上に加えて、エースコックが現地の納入業者に技術支援を進めてきた成果が表れる。日本からの輸入材料と同水準の材料を現地で作れるようになり、製品の品質を落とさず、材料を輸入から現地調達に切り替えて開発した製品が、00年に誕生したハオハオだ。

即席麺では高級ブランドとして認知されていたエースコックが、価格面でも競争力のある商品を投入したことで、一気にシェアを伸ばした。現在では、国内の即席麺のうち、4食に1食はハオハオが占めるほどだ。

ハオハオブランドチームの責任者、グエン・トゥー・ホアン・ティエン氏

ハオハオの開発を担当したのはベトナム人スタッフで、当時から「市場シェアで20%を取る商品を目指す」ことが必達目標だった。エースコック・ベトナムの金田啓生社長は「ベトナム人の味の好みはベトナム人が一番分かっている」と信頼を寄せる。男性3人、女性2人のベトナム人で構成されるハオハオブランドチームの責任も重い。開発過程では、現地の日本人社員も意見を出して関わっているが、ハオハオチームの分析や感性を最大限生かすことに重きを置いている。

■「未来へ世界へ」

「わが社の根底にあるのは、とにかくやってみるというチャレンジ精神だ」。金田社長は強調する。ハオハオチームのティエンさんは、「即席麺市場をけん引するトップブランドとして、業界を開拓する義務と責任がある」と気を引き締める。市場の最新トレンドや消費者の嗜好(しこう)の変化に感度を研ぎ澄ませ、新商品開発や細かな改良に手を緩めない。

日越外交関係樹立50周年で、日本側実行委員会が掲げたテーマは「手と手を取って 未来へ世界へ」。ベトナム創立30周年を迎えたエースコックが現地に溶け込み生み出した国民食が、「世界」に向けた次の舞台に挑む。

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日本とベトナムが外交関係を樹立してから50年が経過した。日本は1992年に主要先進国でいち早く対越政府開発援助(ODA)を再開し、それが日本企業によるベトナム投資の呼び水となって、世界で最貧国の一つだったベトナムの経済成長を支える役割を果たした。だが、最近は脱中国の動きを強める韓国などに投資額で後れを取り、相対的な存在感は薄まっている。ベトナムにいち早く進出した日系企業の現場から、新たな段階に入った両国の協力のあり方を探る。(全3回予定)

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