社説:パレスチナ 暴力の連鎖を止めねば

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに対する大規模攻撃を行った。報復でイスラエルはガザを激しく空爆し、戦闘の拡大から双方に多数の死傷者が出て、2015年以降で最悪の事態となっている。

 市民を犠牲にした暴力の連鎖を止めねばならない。当事者の自制を強く求める。

 ハマスは数千発のロケット弾を発射し、戦闘員をイスラエル内に侵入させて住民を襲撃した。イベント会場で250人以上が犠牲となったほか、民間人ら100人超を人質として連行した。米国、タイなど外国人も含まれるようだ。

 ハマス戦闘員の越境攻撃は異例で、大きな衝撃を与えた。許されない蛮行であり、ただちに撤退して人質を解放すべきだ。

 イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争状態」を宣言し、ガザ内の千カ所以上の空爆に加え、「完全包囲」を命じて電気やガス、燃料を遮断するとした。人身と経済的な被害の深刻化が懸念される。

 ハマスによる大規模攻撃は、パレスチナ問題の解決が置き去りにされる危機感が背景にある。

 イスラエルは近年、共にイランを敵視するアラブ諸国に接近。バイデン米政権が仲介し、20年にアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンと国交を正常化した。

 最大の後ろ盾のサウジアラビアにも妥協の姿勢が見られるため、ハマスは攻撃で存在感を示し、正常化交渉を阻む狙いだろう。

 また、ガザはイスラエルの境界封鎖で「天井のない監獄」と呼ばれ、経済困窮が深まっている。反ハマスのデモが散発するなど住民の不満をそらす思惑も透ける。

 大規模攻撃の前日は第4次中東戦開始から50年、先月はイスラエルとパレスチナの共存を掲げた「暫定自治宣言」(オスロ合意)調印30年の節目だった。だが宗教上の「聖地」の帰属や境界問題などの交渉は停滞したまま、イスラエルの占領拡大、固定化が進む。

 昨年末、イスラエルで強硬な「史上最右翼」政権が発足し、聖地の支配強化にパレスチナ側が反発。衝突が多発していた歴史的な経緯と構図を踏まえる必要もあろう。

 イスラエルが地上侵攻に踏み切れば、ガザで2千人を超えた14年以上の犠牲が懸念される。周辺の地域や連携勢力を巻き込み、中東情勢がいっそう不安定化しかねない。

 日本を含む国際社会は、戦火の沈静化への働きかけと人道危機の回避に手を尽くさねばならない。

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