Vol.71 ドローン関連の人材育成[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

ドローン市場においては、今年度は大きく色合いが変わった年となっている。

大阪万博にむけた空飛ぶクルマなどは幾分いままでと同様な流れである実証実験的な要素を残してはいるが、通常のドローン市場はそれまでの国プロやユーザー企業が予算を供出してきた実証実験から実用にシフトしてきているという流れとなっている。

(また少し文脈は異なるが、防衛におけるドローン関連予算も実証実験というより、より実用に近いラインが求められている)
詳しくは下記を参照

https://www.drone.jp/column/2023042710001165724.html

無人航空機操縦士

ドローン関連の仕事に就くことを考えた場合に、一般的には昨年2022年12月に国家資格となった1等無人航空機操縦士や2等無人航空機操縦士の取得を目指す人が多いようだ。操縦スクールは700〜800団体あり、ニーズはあるのだと思うが明らかにオーバースクールとなっており、スクールによっての良し悪しも出てきているようだ。

無人航空機操縦士は確かにドローン関連の唯一の国家資格であるし、履歴書に書きやすい資格であろう。

ただドローン産業の全体を捉えた場合に、この無人航空機操縦士は一部分であり、絶対必要な資格でもない。

無人航空機操縦士の資格は、1等がレベル4(有人地帯の内の1部における目視外飛行を対象)2等がレベル3(有人地帯以外の目視外飛行を対象)の資格制度である。これは第1種型式認証・機体認証、第2種型式認証・機体認証と対になっているものであり、この型式認証・機体認証の機体を運用する場合に効果のある資格となっている。
(2023年10月現在で、第1種型式認証取得の機体はACSLが取得した機体のみであり、第2種型式認証取得の機体はまだ1機もない。今年の末までには数機体取得される予定となっている)

また、目視外をベースとした資格となっており、基本的には物流や広域調査・広域監視といった分野の運用のために必要な資格となっている。

そういった意味では、この無人航空機操縦士の資格をとったからといって仕事に就けるわけではないし、先に示した分野の運用にとっては、操縦そのものは重要ではあるが、どちらかというと、その分野に強い国産機体の操縦が出来るかといったことのほうが重要で、試験に使われるDJI機の操縦の上手さ(8の字での操縦など)はスキルセットとしてもあわない。

また、内容としても、どちらかというと、目視外での機体異常や環境要因に伴うトラブル(通信障害やGPS障害、急な突風など)の際に、いかに安全な対応が出来るかという点が重要であり、今回の資格では、そういった項目に関しての対処が、座学においても実技においても、あまりきちんとカバーできる内容になっておらず、スキルセットのずれが生じている。

そういった意味では、ドローンの実用化が進むにつれて、そこでの本当に必要な人材が足りないし、また、ずれてきてもいる。

産業レイヤー別に見た必要な人材

機体メーカー

日本でも現在、数十の機体メーカーが存在しているが、どちらかというと日本ではラジコンメーカーからドローンメーカーにシフトしたメーカーも多く、機体のバランスや部品選定、組立には長けたメーカーも多いが、フライトコントローラーを中心とした機体制御に関してはあまり強くないメーカーも多い。

機体メーカーで圧倒的に必要な人材は、フライトコントローラー内のフライトコードを把握した機体制御に長けたエンジニアである。また、最近では基本機体制御に関してはだいぶ安定してきていることもあり、より安全性を高めたり、より高度な制御が求められてきたりしている。これはフライトコードを理解しつつ、フライトコントローラーと接続されたコンパニオンコンピューターで処理をし、フライトコントローラーに命令を与えるといったことに長けたエンジニアも必要になってきている。

また、様々な目的に応じたペイロード(カメラや散布装置など)を機体制御と連動させながら制御をおこなうことに長けたエンジニアも求められている。

そして、ドローンのユーザーやサービサーが運用局面になってきた場合、ドローンを運用するための使いやすいアプリケーション(DJI FlyやDJI Pilotのような)も求められてきており、こういったアプリケーションを開発できるエンジニアも求められている。

また、こういった開発内容をきちんとテストすることが出来る人材も求められている。

これ以外も人材としては、ドローンの市場環境や分野別のニーズを理解しておりドローンの機体を展開していくことに適したマーケティングや営業(特に法人営業や代理店営業)の人材も求められている。

ドローンサービサー

ドローンでのサービスを展開している会社も多くあるが、これはどちらかというと各業務分野に特化しているケースが大半だ。

各業務分野で必要な人材は異なるが、まずはその対象とする業務分野をきちんと理解しているということにあり、そのドローン活用するユーザーが活用する目的は何かということやそのメリットもきちんと理解するということがまず前提になる。

その中での業務分野としては、開発と現場運用、マーケティングや営業に分かれるだろう。

開発としては二つに分かれ、対象とする機体メーカーをターゲットにした使いやすいアプリケーションの開発とドローンで取得したデータを各業務分野に特化して処理するためのアプリケーション・クラウドの開発となる。

例えば、CLUEなどは、屋根点検や施工管理に特化した内容での機体運用のアプリケーションとその取得した内容を処理するクラウドを自社開発している。

こういった開発も伴うサービスを提供するサービサーは少なく、PIX4DのPIX4Dcapture ProやPIX4Dmapperなどの汎用製品を使っているケースが多いが、より業務に特化するという点においてはCLUEが示すようなアプローチも重要になってくる。

これはやはり、機体管理アプリケーションを開発できるエンジニアやドローン特有(取得したポイントが移動する)のデータ処理のアプリケーションやクラウドを開発できるエンジニアが必要となる。
(ユーザーのデータを預かる場合には、セキュリティなどのスキルセットも重要だ)

サービサーの場合にはユーザーの代わりに現場運用を実施するケースもある。

この場合、その現場環境によっては、1等無人航空機操縦士や2等無人航空機操縦士といった資格者が必要な局面もある。そのほか、場合によっては、第三級陸上特殊無線技士資格も必要な場合もあるだろう。

また、スキルセットとして何よりも重要なのは、安全で確実な運用や必要なデータ取得が出来るといったことになる。

これはどちらかというと、機体運用アプリケーションやデータ処理のクラウドをきちんと使いこなせることが重要になってくるし、また、飛行前や飛行後の機体状態を把握するスキルセットである。それはバッテリーやモーターなどの消耗品を中心として機体整備の知識や能力も不可欠であるが、ドローンが自律移動ロボットである以上、その機体ログや航行ログの解析といったものも、より安全性を高める観点では必要なスキルセットになってくる。

また、機体メーカーの部分でも示したが、ドローンの市場環境や分野別のニーズを理解しており、自社サービスを展開していくことに適したマーケティングや営業(特に法人営業や代理店営業)の人材も求められている。

ドローンユーザー

ドローンユーザーの場合、これも業務内容によって異なるが、その業務は現場運用とデータ処理に大別される。

現場運用は上記サービサーのところで示した人材やスキルセットと同様なものになっているが、現場の人材は現場のプロであり、ドローンのプロではないため、より使いやすく安全な仕組みが必要となってくる。

ここが現在、実運用局面を迎えたドローン活用の大きな課題となっている。

ドローン機体メーカーおよびドローンサービサーは、この「使いやすく安全」といった部分によりフォーカスすることが重要であり、その競争に勝ったメーカーやサービサーのプロダクトやサービスが浸透していくだろう。(こういった点ではDJIに学ぶ点はまだまだ多い)

データ処理に関しては、現在、各業務分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されているが、取得データとDXの連携なども非常に重要で、こういったことを理解し、推進していく人材も必要となっている。

ドローンのエンジニアリング力をどう向上させるか

ここに示したようにドローンの実運用を拡げていくには、ドローンのエンジニアリング力を向上させていくしかない。

しかし、この部分においては、日本は非常に遅れている。

例えば、北米においては、2010年代半ばより、大学の中でドローン学科が作られてきた。

エンブリー・リドル航空大学(Embry-Riddle Aeronautical University)は、世界最大の航空宇宙関連の大学で、ドローンに関するさまざまなプログラムを提供しており、例えば、無人航空システム工学(Unmanned Aircraft Systems Engineering)、無人航空システム科学(Unmanned Aircraft Systems Science)、無人航空システム運用(Unmanned Aircraft Systems Operations)などがある。

ノースダコタ大学(University of North Dakota)は、2009年に米国で初めて無人航空システム専攻(Unmanned Aircraft Systems Major)を開設した大学で、この専攻では、ドローンの設計、製造、運用、管理などに関する知識と技能を身につけることができる。

カンザス州立大学(Kansas State University)は、無人航空システム飛行および運用専攻(Unmanned Aircraft Systems Flight and Operations Major)を提供しており、この専攻では、ドローンの飛行訓練や運用管理に加えて、法律や倫理、安全性などに関する教育も受けることができる。

このように多くのドローンエンジニアが輩出しており、それが現在北米でのドローン産業を支える人材となっている。

しかし、日本においては、まだ大学の中で1つもドローン学科を持つ大学はない。
(いくつかの研究室においてはドローンを学ぶことが出来る研究室もでてきているが)

また、冒頭示した通り、ドローンの操縦スクールは数百あるが、民間においてもドローンのエンジニア向けカリキュラムを定期的に提供しているのは、筆者が経営するドローン・ジャパンの「ドローンエンジニア養成塾」がわずか1つあるのみだ。

「ドローンエンジニア養成塾」はドローンエンジニア向け人材育成事業として2016年5月20日より開始し、継続、拡大している実績があり、ドローン業界を支えるエンジニアの輩出実績(2023年8月1日現在:第1期から第15期まで575名の卒業生)もある。日本の7割以上の機体メーカーにはここでの卒業生が活躍している。

国産機体メーカーの採用率の高いミッションプランナーといったグランドコントロールステーションを使い倒して運用管理に必要な知識の取得可能な「エンジニアリングパイロットコース」から、コンパニオンコンピューターでの高度な機体制御や機体管理アプリケーションの開発知識の取得可能な「アプリケーション開発技術コース」、機体制御に欠かせないフライトコードの知識の取得可能な「ArduPilotフライトコード開発技術コース」と3つのコースがある。

一年に二度講座は開講しているが、2023年11月4日より、2023秋冬の第16期が開講される。ご興味がある人はこちらまで。

講座の宣伝めいた内容になってしまったけれど、こういったエンジニアリングスキルは、日本が今後ドローン産業で、そして、それは就労人口減時代の課題解決にむけた自律移動型ロボットの産業で国際競争力を高めるためにも非常に重要なスキルセットとなっており、こういった人材育成を強化することなくして、この産業で日本は勝つことはできないだろう。

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