「ヘヴィ・サウンズ」(1968年、インパルスレーベル)「先鋭的」だが基本も大事に 平戸祐介のJAZZ COMBO・31

「ヘヴィ・サウンズ」のジャケット写真

 今月は秋の大祭、長崎くんちが4年ぶりに通常開催されます。何よりうれしいですね。踊町の皆さま、本当にご苦労さまです。
 さて今回は私の父が長崎市内で経営していたジャズ喫茶「COMBO」でも非常によくかかっていた盤をご紹介します。同市に定住していたこともあるドラマー、エルヴィン・ジョーンズとジャズベース界の異端児リチャード・デイビスが1968年、インパルスレーベルからリリースした双頭名義作品「ヘヴィ・サウンズ」です。
 ジャケットには気持ちよくたばこをくゆらす二人。当時ジャズ喫茶店内でもこの盤がかかると必然的にお客のたばこが増えたという逸話があるほど人気の盤でした。内容はパワフルかつスピリチュアルなジャズが展開されています。それもそのはず。68年といえば、ジョーンズが長く活動を共にしたサックス奏者、ジョン・コルトレーンが夭逝(ようせい)して間もない頃のレコーディングでした。亡き大物を追随しながらも、それを発展させようとするジョーンズの試行錯誤が顕著に表れたアルバムともいえます。
 一方のデイビスは、サックス奏者のエリック・ドルフィー、ピアニストのアンドリュー・ヒルといったフリージャズの要素を含んだ前衛音楽の旗手らと一戦を交えてきた猛者です。この盤でもジョーンズと共に先鋭的なサウンドを豪快に打ち鳴らしています。
 ただ、この盤のすごいところは単に先鋭的サウンドに終始していないこと。二人ともジャズの起源ともいえる「ブルース」を大切に扱っていて、これほどのミュージシャンでも基本を大切にしている事実にとても感銘を受けます。
 「Summertime」では二人のストーリー展開能力、「Shiny Stockings」においてはジャズイディオムの大切さが分かります。ジャズ初心者の方には少々ハードかもしれませんが、ジャズの神髄を大迫力のサウンドと共に楽しむのも一興かと思います。
 ジョーンズは78年ごろ、父のジャズ喫茶にケイコ夫人と訪れ、幼かった私は彼にハグしてもらいました。デイビスには大学時代、日本ツアーを一緒に回るという、またとない機会をいただきました。残念ながら先月、96歳で天に召されましたが、彼からは多くのことをじかに学びました。この二人がいたからこそ現在の私のジャズ人生がある-。ヤニまみれのこの盤を聞くたびに強く思い返します。(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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