「医療を攻撃するな」「人道法の順守を」国境なき医師団と赤十字国際委員会が共同会見で訴え

イスラエルとパレスチナ・ガザ地区双方で多くの人が傷つき、亡くなっている。国境なき医師団(MSF)と赤十字国際委員会(ICRC)駐日代表部が10月13日、東京都千代田区の日本記者クラブで共同記者会見を開き、暴力の即時停止と人道面での対策強化を求めた。

MSFもICRCも、多くのスタッフがガザ地区で医療などの活動を続けてきたが、状況の悪化で大きな制約が出ている。

両団体の代表は、国際人道法の尊重と、医療への攻撃をやめることなどを強く訴えた。それぞれの発言を紹介する。

共同会見したMSF日本の村田慎二郎事務局長(左)と、ICRCの榛澤祥子駐日代表=2023年10月13日撮影 © MSF

MSF日本・村田慎二郎事務局長の発言

人道状況を強く懸念

イスラエル、パレスチナ双方にもたらされた被害は、甚大です。私たちは、暴力の連鎖を憂い、当事者双方の悲劇を悼んでいます。その中で、国境なき医師団がどのような緊急対応をしているかというところをお話しします。

現時点で当団体のスタッフは、ガザ地区に約300名います。うち、海外からの派遣スタッフが20名強。うち日本人は3名です。

当団体は1989年から、パレスチナ・ガザ地区とヨルダン川西岸地区で活動しています。今回の件で、人道援助、人道状況が破滅的になっていくのを危惧しています。

我々医療物資の提供、負傷者の治療、 この2つの活動を主に、現地の病院と協力しながら行っています。医療物資は、ガザの主要病院に、医薬品、消耗品、医療機器などを寄贈しています。特に麻酔薬や鎮痛剤が非常に不足してきているという情報が入っています。

負傷者の治療では、複数の支援先の病院に、やけどや外傷を手当てするため外科手術のチームを派遣しています。また、ガザ中心部に負傷者のためのクリニックも設置しています(ガザでの活動はいずれも10月13日時点の状況に基づく)。

「帰宅できるか」。不安抱えながらの毎日

支援先の病院は、ガザ北部には3カ所あります。アル・アウダ病院とインドネシア病院。そして、手術室での支援を新たに始めた、ガザ地区最大の病院であるアル・シファ病院です。また、南部ではナセル病院を支援しています。

ご存じのように連日連夜、空爆が続いており、私たちの現地スタッフが朝、自宅を出て出勤するときに、もう一度、本当に自分の家に帰ってこれるのか、自分の家族に会えるのかという不安を抱えながら活動をしているという実態があります。

医療現場からは、こんな声が届いています。

「病院は、負傷者で溢れ、医薬品も医療物資も、発電機の燃料も足りません」「救急車が空爆の被害を受けて現地のドライバーが1人、亡くなりました。そして、患者を運ぶことができないということが起きています」

また、保健省の病院では、先ほども申し上げましたが麻酔薬や鎮痛剤が不足しています。

私たちには2カ月分の緊急備蓄があり、北部のアル・アウダ病院に提供したのですが、3週間分の在庫を3日間で使い果たしてしまいました。このままいくとあと数日で物資が底をつく状況です。人道上に必要不可欠な医薬品、食料、 水、燃料といった物資の提供が急務な状況になっています。

攻撃の即時停止と集団的懲罰の中止を

当団体は全ての紛争当事者に、以下の点を緊急に強く要請します。

まずは双方が無差別攻撃を即時停止すること。

続いて、ハマスからの攻撃を受けてイスラエルが行っているガザ地区に対する集団的な懲罰をやめること。

ガザを完全に包囲をし、医薬品も食料も水も燃料も全く入れないような状況にして、そればかりか物資を提供しようとしてる者に空爆まで行うというような、集団的な懲罰を完全に否定しなければいけないと考えております。また、民間人、一般市民の安全地帯、それから移動の確保、および食料、水、医療へのアクセスの確保が、このような事態であっても必要不可欠だ考えています。

完全封鎖の解除がなければ、人道支援に必要な医薬品などの物資を入れることができません。また、当団体の緊急支援チームも入ることができない状態です。封鎖の解除を、強く訴えます。

人びとの命綱=医療を攻撃するな

国際人道法を順守し、医療施設、医療従事者を攻撃しないこと、安全に患者を搬送ができるようにすることを、強く訴えます。

世界保健機関(WHO)のデータでは、10月7日以降で少なくとも75回の医療施設への攻撃が報告され、少なくとも34人の医療従事者が死傷しています。

医療スタッフへの攻撃は、それ自体が非難されるべきものですが、それに加えて紛争地での医療への攻撃というのは、その医療施設を命綱にしている現地の何千人、何万人という人たちから医療へのアクセスを奪う行為です。

それにより、助かるはずの命、 救えるはずの命が救えなくなるという状況を、シリアやイエメンその他のところで、私たちは目撃してきました。ガザで同じようなことが起きているということに、非常に強い懸念を持っています。

私たちのスタッフが現地でなかなか移動できなくなっており、負傷した人たちを思うように救命できない状態が続いています。こういった状態が、早く改善されるよう強く求めます。

ICRC・榛澤祥子駐日代表の発言

戦争にもルールがある

1週間も経たないうちに人道上看過できないレベルに達した惨劇を、私たちはイスラエルとガザで目の当たりにしています。

ICRCは戦闘の当事者に対して、戦時のルールを定めたジュネーブ諸条約に則り、民間人をはじめ人道支援や医療に携わる人びとを守り、活動を尊重することを強く訴えています。 民間人は人道支援や医療サービスを受ける権利を有し、 人道団体、医療団体は、助けを待つ人びとに安全にたどり着いて活動を全うできるよう便宜が図られるべきです。また、人質にされることもあってはなりません。人質を取ることは国際人道法で禁じられています。 ここまでのレベルの暴力は、各地の紛争地で活動してきたICRCですら、近年見たことがありません。日に日に暴力の度合いが高まり、イスラエル、ガザ双方でとてつもない数の民間人が犠牲になっています。 この看過できない状況を受けて、紛争地で160年人道支援を行ってきたICRCは、 全ての当事者に対して、民間人を守ること、 電気や水などのインフラをはじめ、人びとの命に直結する施設や物資を攻撃しないことを、強く要請します。

このままでは病院が墓場に

同僚が現地から伝えている通り、封鎖により急場をしのぐための援助物資も 燃料も食料も入ってきておりません。電力の供給が止まると医療現場に打撃を与え、病院が一転して墓場と化す可能性を私たちは懸念しています。 私たちはガザの保健省と協力してアル・シファ病院の救急救命部門を強化してきましたが、この病院は現在24時間体制で負傷者を受け入れています。 あまりの数にトリアージ(※)に基づく適切な措置が行えてないと聞いております。 下水道が機能しなくなると、そこから病気が広がるリスクもあります。現在5つあるうち3つが機能しておらず、汚水が海に放出されてしまうとのことです。(ガザに水を供給する)海水脱塩化施設も電力不足のため停止しています。 ガザ全体で利用できる水の40パーセントを失いました(支援内容とガザの状況はいずれも10月13日時点の状況に基づく)。 ガザでは、とてつもない数の人びとが移動を強いられ、多くの家族が離れ離れになり、連絡が取れない状況で、身内の安否を心配しています。

※重症度・緊急度などにより治療の優先順位を決めること

人質を取るのは国際法違反

イスラエルでは、人質に取られた身内の無事を多くの人びとが祈っています。繰り返しますが、人質を取る行為は国際人道法違反で、即座に解放する必要があります。

ICRCは、この問題についても、現在もハマスとイスラエル当局と対話を重ねています。

私たちは、中立な仲介者として人質と面会し、家族との通信を可能にするとともに、 解放されたときにサポートする用意があります。人道支援スタッフや救急車、医療従事者は、人びとの命を救う任務を全うする立場にあり、攻撃をされることが決してあってはなりません。

同僚たちがガザで活動できるよう、移動の安全も確保されなければなりません。

物資があっても届けられないー停戦と人道回廊を

現時点で、私たちの手元には燃料や医薬品など必要な物資はあります。ただ、人びとに届けることができていないのがジレンマです。

下水処理場に燃料を届けたいし、給水支援もしたい。 ポンプ場にバッテリーを届けて稼働できるようにしたい。でも、安全が確保されない限り、そうした活動ができないのです。

また、そうした物資もそのうち尽きてしまうことは確実です。追加分を調達するという意味でも、一時停戦か、またはいわゆる「人道回廊」と呼ばれる安全な経路の設置を、当事者間で合意することを望みます。

ここで改めて明確にしたいのは、人道回廊を設置して人びとや活動の安全を確保することは歓迎しますが、そもそも民間人や人道支援は、いかなる時にも安全が確保され、避難をしたり物資を運び込んだりできなければいけません。

それが戦時のルールです。回廊を設置した間だけ安全が確保されるという前提はやはり違います。

医療従事者の命が奪われている

また、医療従事者の命も奪われています。今週、国際赤十字・赤新月運動のパートナーであるパレスチナ赤新月社の同僚が4人、活動中に戦闘に巻き込まれ、命を落としました。負傷した者も複数います。

イスラエル側のパートナー、ダビデの赤盾社の救急隊でも、1人死者が出ました。

こうした仲間の死を悼み、改めて家族や同僚、友人の方々にお悔やみを申し上げます。命をとして現場で救助活動にいそしむ同僚たち、赤十字運動の仲間たちを、私はとても誇りに思います。

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