【インド】パナ、電動三輪をITで支援[運輸] 利用促進で渋滞緩和とCO2削減

ITシステム実証運転で使っている電動オートリキシャ=17日、首都ニューデリー(NNA撮影)

パナソニックホールディングス(HD)が今月からインドで、電動オートリキシャ(電動三輪タクシー)によるラストマイル交通を支援するITシステムの実証運転を始めた。2024年6月までの9カ月間、同HDが構築したクラウドとアプリを運用し、電動リキシャの乗客数や運行効率に関するデータを収集。クラウドとアプリを随時改良し、乗客の利便性と輸送効率を向上させる。将来的には、車移動の減少とメトロ(都市鉄道)移動の増加につなげ、インドの社会課題である渋滞緩和と温室効果ガス削減を目指す。

ITシステムの実証運転は13日、いずれも首都ニューデリーにある、デリーメトロのカルカジ・マンディール駅、オクラNSIC駅、ネルー・エンクレイブ駅、ネルー・プレイス駅の4駅を中心に開始。今後、電動リキシャ乗客が各駅から目的地に着くまでのさまざまなデータを集める。

検討段階を含む実証運転の総費用は2億円超で、うち1億円超は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が助成する。ニューデリーで17日、実証運転の開始式が開かれ、パナソニックHDやNEDO、デリー政府、デリーメトロ鉄道公社(DMRC)、在インド日本大使館、国際協力機構(JICA)の関係者ら約70人が出席した。

実証運転に使うクラウドとアプリはパナソニックHDが構築した。クラウドは、電動リキシャの運行や配車、電池の情報を管理する。アプリは、地場の電動リキシャ運行会社であるETOモーターズ向け、リキシャ運転手向け、リキシャ乗客向けの3種類を用意。それぞれのアプリを通じ、▽ETOモーターズは車両やバッテリーの管理▽運転手は乗客の待ち状況や運転車両の充電状態▽乗客は空き車両の確認や乗車予約、キャッシュレス決済——に関する情報をやりとりする。

実証運転の仕組み(パナソニックホールディングス資料より)

■「ラストマイル」整備でメトロ利用増

インドは、経済成長に伴い、交通渋滞や大気汚染が都市部で社会問題になっている。メトロ拡張が進んでいるものの、自家用車やオラ、ウーバーなどライドシェアサービスによる車移動がまだまだ多く、交通渋滞や大気汚染の問題に拍車をかけている。

 メトロ利用者を増やすためには、利用者の自宅から乗車駅までの「ファーストマイル」、降車駅から目的地までの「ラストマイル」移動の仕組みを整えることが重要だ。NEDOとデリー政府は22年12月、今回の実証事業に関する協力合意書(LOI)を締結。その後の同月、NEDOの助成を受けたパナソニックHDが、電動リキシャの製造・運行事業を手がけるインドのETOモーターズとプロジェクト合意書(PA)を交わした。

パナソニックHDは今後、電動リキシャの乗客数や運行効率に関するデータを集めて分析。クラウドとアプリを随時更新し、乗客の利便性と輸送効率の向上を図る。同HDが持つ運行管理や走行ルート最適化、電池管理の知見を生かし、具体的には、電動リキシャの相乗りルート最適化で乗客をたくさん集めて運賃収入を上げたり、故障の事前予測で車両を動かせない時間を減らして運行コストを下げたりといったことに取り組む。

長期的には、車移動の減少とメトロ移動の増加につなげ、渋滞緩和や温室効果ガス削減を目指す。温室効果ガス削減については、年間260トン程度の二酸化炭素(CO2)削減を見込んでいる。

パナソニックHDに実証事業費の半分程度を助成するNEDOは、今回の成果が日本に還元されることや日本の産業技術力の強化につながることを望んでいる。

電動リキシャの乗客向けアプリ画面=17日、ニューデリー(NNA撮影)

■パナ幹部、実証後に「事業化」

パナソニックHDでモビリティソリューションズ担当参与を務める村瀬恭通氏は17日、NNAの取材に対し、今回の取り組みを実証で終わらせるのでなく「必ず事業化したい」と言及。実証運転中から、マーケティングやファイナンスを含めた複数の協業相手を探す考えを示した。

今回すでに組んでいるETOとは、実証後も協業継続を検討するもようだ。将来的なビジネスモデルは、複数の電動リキシャ運行会社や乗客からシステム利用料をもらうことを想定。クラウドやアプリにつながる車両が増えるほど、事業規模を拡大できるという。

ETOのディーパンカル・ティワリ副会長も17日の開始式で、「ETOはインド9都市で電動三輪車を走らせている。将来的には、今回の取り組みを多くの都市で展開することを期待している」とし、実証後もパナソニックHDと協業を続けることに含みを持たせた。

開始式には、デリーメトロ鉄道公社のエグゼクティブ・ディレクター(ラスト・マイル・コネクティビティ担当)のシラジュル・ホーク氏が参加。ホーク氏は「実証運転と同じアプリにメトロ関連の機能を追加するなど、全ソリューションを一つのアプリに統合する必要がある。アプリはシンプルかつ便利でなければならない」と話した。

デリーメトロ支援を続けてきたJICAの斎藤光範・インド事務所長も開始式で、「デリーメトロは乗客を毎日運ぶ点でうまくっているが、ラストマイル接続はうまくいっておらず、潜在能力を十分発揮できていない」と指摘。「ラストマイル接続を向上させることができれば、メトロ利用者を倍増できる」と述べた。

NEDOの弓取修二理事は17日のNNAの取材で、「実証運転で、乗客ニーズをどれだけ的確に把握して次のアクションに生かせるかがポイントになる」と語った。

電動リキシャ運行会社であるETOモーターズ向けアプリ画面=17日、ニューデリー(NNA撮影)

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