4月に紛争が始まって以来、数百万人の人びとが避難を余儀なくされているスーダン。多くの人びとがたどり着いた同国南部白ナイル州にある10カ所のキャンプでは、4月以降、人口が1.5倍近くに増えた。食料、水、仮設住居などが大幅に不足し、援助対応が追いついていない状況だ。 紛争により悪化した危機に対応するため、国境なき医師団(MSF)は6月に白ナイル州での活動を再開。保健省の運営する3カ所の診療所で基礎医療を提供し、8月には、はしかの集団予防接種の支援も行った。
白ナイル州のひっ迫した状況を、現地で活動するMSFのヘルスプロモーターのアイシャの証言と、動画で伝える。
言葉にできないほどひどい
人びとの暮らしぶりは言葉に表せないほどひどいものです。私は、清潔な水も適切な衛生環境もなく、大勢の人と一緒の酷暑のテントの中で出産し、新生児の世話をする女性を大勢目にしてきました。
2020年にもここに来ましたが、そのときでさえ、白ナイル州にあるいくつもの難民キャンプでは、水や食料、住まいといった、人びとの基本的なニーズを満たすことがままならない状況でした。
50万人近い国内避難民や難民が白ナイルの10カ所のキャンプで暮らしている現在、状況は危機的です。人びとは仕事や生計手段を失ったままです。もっと悪いのは、この状況がいつ終わるのか誰にも分からないことでしょう。
ヘルスプロモーターとしての私の仕事は、健康について人びとに教え、社会的な側面から彼らのニーズを明らかにすること。最も大事なのは、個人の話に耳を傾け、地域とのかかわりを強化していくことです。そうして聞くことのできたお話を一つ、紹介します。
病院に行きたがらないお母さん
白ナイル州で2番目に大きな難民キャンプであるアルアガヤ・キャンプで、首都ハルツームの紛争から逃れてきた3人の母親に出会ったときのことです。女性の末っ子は栄養失調になっていたので、きちんと治療するためにはキャンプ外の病院に移さなければならないことは明らかでした。しかし、大抵の母親は家族や子どもを置いて遠出をしたがりません。この方も同じでした。
私はお母さんと何時間も話し、子どもを病院に連れて行くことのメリットを説明し、MSFが交通手段と薬を用意しますと約束しました。お母さんは他の2人の子どもをキャンプに残したくなかったので、ためらっていました。お子さんたち全員と一緒に行きましょうと約束したら、ようやく納得がいったようで、荷造りのために帰って行ったのです。
彼女が子どもたちを連れて戻ってくると、驚いたことに一人だけでなく子ども全員が病気になっているではありませんか。どうして他の2人の子どもの状態を私たちに知らせなかったのか聞くと、MSFが全員治療してくれるとは思ってはいなかったそうなのです。
最終的には、お子さん全員を病院に搬送することができました。
誰もが大変な思いを
私も国内避難民ですから、避難民としてキャンプ暮らしをしている方の苦労は身にしみて分かります。ヘルスプロモーターとしての役割と自分自身の経験とのバランスを取るのは難しいものです。ここにいる人たちの話を聞いていると、誰もがその人なりに大変な思いをしてきたと思い知らされます。
やるべきことは山ほどありますが、私たちは3つのキャンプで人道援助活動を行っています。たやすいことではなく、ニーズは膨大です。でも、ありがたいことに、強力なチームがそばにいます。バイタリティにあふれ、毎日私を支えてくれる──チームのメンバーは何にも代えがたい存在です。