長崎市、学校司書導入から15年 雰囲気や設置本も大きく変化 堂々と1人になれる居場所にも

部屋全体が明るく、居心地のいい空間が広がっている。手前はシューズを脱いでくつろげる畳座スペース=長崎市蚊焼町、市立蚊焼小

 読書の秋を迎えた。子どもたちが本と接する場所の代表格といえば、学校図書館。長崎市では2009年度から公立の小中学校へ司書の配置を進めるなど充実を図り、この15年で雰囲気は大きく変わっているようだ。児童生徒のニーズや時代に合わせ、配置する本も変化。ネット社会に生きる子どもたちに本と向き合ってもらうため、現場はどう対応しているのか。市内の公立小中学校を訪ねた。
 10月中旬、市立蚊焼小の図書館。入り口横の本棚はハロウィーン仕様に飾り付けられている。目の前にはシューズを脱いでくつろげる畳座。部屋全体に明るい空間が広がっていた。
 同校の司書、髙﨑若美さん(58)は、09年度から市内の小中学校で司書を務める。各校に司書が入って環境整備が進み、「以前の少し薄暗いイメージとは全く違う」と15年間の変化を振り返った。
 市教委によると、09年度に学校司書4人を配置。現在は43人が中学校を拠点に校区内の小学校を兼務するなどし、全105校をカバーしている。
 「司書がいることで『図書室』から『図書館』になる。ただの本の置き場ではない」。そう指摘するのは学校司書10年目、市立西浦上中の司書、永川千穂子さん(51)。
 同校図書館では昼休みにカフェミュージックが流れる。パーティションで区切られ、壁に向かって座る「お一人さま」席も好評だ。永川さんは「学校生活の中で1人になりたい時もある。独りぼっちではなく、ここでは堂々と1人になれる」と居場所としての役割を説明。司書が配置されたことで、夏休み中の勉強場所としても利用されている。

 ■正しい情報
 学校司書12年目、市立橘中の司書、小林香さん(52)は、情報があふれるネット社会の中で「本を活用すればピンポイントで正しい情報を見つけることができる」と効用を強調。各教科の教諭や図書担当教諭と情報交換し、授業での利用を促している。
 ただ、読書が苦手な子にとって図書館のハードルは低くない。足を運んでもらうため、司書たちは蔵書の構成バランスを考えつつ、児童生徒の好みにも対応しようと試行錯誤を続ける。
 「最近はワクワクよりゾクゾクを好むのか、怖い話が人気」(髙﨑さん)、「短編本が選ばれる。Kポップ人気で韓国語の本を手に取る子も多い」(永川さん)。近年のキーワードである持続可能な開発目標(SDGs)やジェンダー関連の本も増えている。
 図書館漫画の顔触れも変化。原爆の悲惨さを伝える「はだしのゲン」といった昔からの定番に加え、細胞を擬人化した「はたらく細胞」など学習に役立つ作品は導入の動きが広がる。五島を舞台にした「ばらかもん」も郷土を知る1冊として人気。市立東長崎中には、同校出身の漫画家、渡辺航さんが自転車競技に打ち込む高校生を描いた「弱虫ペダル」が並ぶ。各校は児童生徒が授業中に読まないよう、原則持ち出し厳禁にしている。

 ■知の拠点に
 髙﨑さんは「図書館の主人公は子どもたち。『楽しかった』『ためになった』とプラスの気持ちになれる場所にしたい」と司書仲間の思いを代弁する。小林さんは「心を落ち着かせ、心の汚れを落としてくれるのが読書」だと表現。永川さんは「知識、情報、言葉を蓄えることができる。それは一生の財産になる」と本の力を語った。
 全国で書店は減少の一途をたどる。全国学校図書館協議会の設楽敬一理事長は、安全対策を講じた上で学校図書館を住民に開放している事例もあるとし、「今後は学校図書館が地域の知の拠点として役割を果たす可能性もあるのではないか」と話した。

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