社説:観光公害対策 分権で京都に委ねては

 霞が関の官僚が机上でひねり出したメニューの域を出ない。京都など、オーバーツーリズム(観光公害)に悩む自治体が思い切った対策に踏み出せるよう、後押しする枠組みこそ求めたい。

 政府は観光立国推進閣僚会議を開き、多くの観光客が集中して住民生活に影響を及ぼす観光公害対策をまとめた。

 観光客の「抑制」と「分散化」に向け、交通分野の規制緩和や地方への誘客、マナー対策の促進などを盛り込んだ。

 現場では既に取り組んでいることも多く、実効性は心もとない。観光は訪問者が選択するため、地域差が大きく、個別事情もかなり異なる。全国一律の取り組みには限界があろう。

 国が観光のアクセルとブレーキを同時に踏むのではなく、誘客の調整に注力し、抑制が必要な自治体には一定の権限と財源を移譲して任せたらどうか。停滞する地方分権の試金石ともなろう。

 円安と新型コロナウイルス対策の緩和が追い風になり、直近の政府統計で訪日外国人客数(9月推計値)は4カ月連続で200万人を超えた。その消費額は約1.4兆円(7~9月期)に達し、初めてコロナ禍前の水準を上回った。政府目標の年間5兆円をうかがう勢いという。

 特に滞在期間が長いフランスやスペインなど欧米からの観光客の支出増が目を引く。京都の観光地でも、中国人が目立ったコロナ禍前との変化を実感できよう。

 半面、ごみや騒音などのマナー違反のほか、住民がバスに乗りにくいといった観光公害が顕著になってきた。紅葉が見頃を迎える12月上旬にかけ、深刻化への懸念が高まっている。

 京都市もバス1日券の廃止による地下鉄誘導や、混雑予測サイトの発信強化、嵐山・清水の市営駐車場値上げなどの対策を進める。ただ、市民が実感できる効果を上げているとは言い難い。

 入域制限など一層踏み込んだ対応も選択肢だろう。それには、財政難や法的な規制が足かせになっているともいわれる。

 国は今回の対策で、混雑時に鉄道運賃を上げたり、駅から観光地へ急行バスを導入したりといった運輸規制の緩和を入れた。だが、住民と観光客をどう識別するか。負担や渋滞が増しては本末転倒だ。

 地域に適した対策を柔軟に打ち出すには、地方分権で自治体の裁量を広げ、観光客と住民、事業者を主導できる体制を強めたい。

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