〈奥能登国際芸術祭2023〉被災作家「復興の光に」 福岡で土石流被害の牛嶋さん、遊具アートようやく展示

仕上げの塗装作業が進む作品と牛嶋さん(手前)=19日、珠洲市大谷町

  ●強風に耐える松イメージ

 珠洲市全域で開催中の奥能登国際芸術祭2023(北國新聞社特別協力)は20日、九州の土石流被害で制作が遅れた大型遊具アートの展示が始まり、新作40点がそろった。土石流に遭った作家の牛嶋均(ひとし)さん(60)=福岡県久留米市=は、被災した経験と5月の奥能登地震を重ね「自然災害の恐ろしさを知ったからこそ、アートが『復興への光』になってほしいと心から願っている」と話した。

 牛嶋さんは久留米市で遊具製作所を営む傍ら、鑑賞だけでなく体験もできる遊具アートを手掛ける。ようやく完成した作品のパーツを福岡から搬送し、18日から2日かけ、珠洲市大谷町の高台に、鉄骨造り、高さ約6メートルの遊具作品「松雲海風艀雲(まつくもうみかぜはしけぐも)」を設営した。

 海から吹く強風に耐えて根を張る松をモチーフにしており、松の枝葉に当たる部分は空に浮かぶ雲と、平底の舟を指す「艀(はしけ)」をイメージ。塗装を乾かしたり、ネットを設けたりするため、遊具作品に上ることができるのは週明けからとなる。牛嶋さんは「空をゆっくり流れる雲のような、河川をゆっくり進む舟のような、そんな時間を子どもたちに楽しんでほしい」と語る。

 牛嶋さんのアトリエがある久留米市田主丸(たぬしまる)町の竹野地区は、7月10日の大雨で大規模な土石流が発生した。アトリエにも大量の流木や泥が流れ込み、芸術祭で展示するアート作品の制作作業は中断。その後も断続的に強い雷雨に見舞われ、制作を再開したのは8月に入ってからだった。

 高台は旧西部小の跡地で、芸術祭の主要施設・民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」が建つ。9月に「潮騒(しおさい)レストラン」がオープンしたのに続き、子どもが遊べる作品が出来上がり、幅広い世代が楽しめるエリアとなった。

 牛嶋さんは能登は九州から遠いため、5月に珠洲で地震が起きた時は「被災地」と聞いても実感が湧かなかったといい「被災してみて、地震で怖い思いをした子どもたちに笑顔が広がってほしいと強く思う。展示が間に合ってよかった」と胸をなで下ろした。

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