社説:京都市芸大の移転 まちに開かれ、文化育む場に

 京都市立芸術大の新キャンパスが今月、下京区の崇仁地域に誕生した。折しも文化庁の京都移転の年と重なった。JR京都駅東側という市中心部への大学移転を、新しい文化芸術の創出やまちづくりに生かせるかが問われよう。

 西京区沓掛にあった旧キャンパスは、開設から30年以上が経過して老朽化が進み、専攻の増加や大学院の新設などで手狭となっていた。企業との連携や教育研究活動のアピールも狙い、2014年に市が中心部への移転構想をまとめた。

 多くの人に表現活動を見てもらいやすいキャンパスは、市立芸大の念願だったという。新キャンパスには塀や門がなく、建物の周りにはさまざまな人たちが集うテラスが設けられた。大小二つの音楽ホールも設置され、市民との交流を促す工夫が施されている。

 こうした「開かれた大学」づくりに、差別と闘ってきた地元の期待も大きい。

 崇仁地域の人口は1960年代には9千人を超えていたが、現在では約1300人にまで減っている。移転に合わせて、住民と学生、教員が協力してものづくりや芸術祭の開催を進めるなど、地域と大学のさまざまな連携が生まれている。息の長い取り組みに育てたい。

 一方、交通要衝である「まちなか」への芸大移転を巡っては、市議会で「オフィス不足への対応を優先すべきだ」などとする指摘も相次いだ。

 移転の総事業費は約273億円に上る見通しで、物価高の影響で当初の予算額から約15億円増えた。

 公共料金の値上げなど財政難の影響が市民生活にも及ぶ中、巨費を投じた大型事業の妥当性や波及効果について、市は継続的に検証せねばならない。

 市立芸大は、教育環境の充実に必要な費用の寄付を企業や市民から広く募っている。公費だけに頼らない運営の努力は重要だろう。

 立地のよさを生かした一般コンサートや作品展の開催、学び直しへの活用など市民への還元にも一層力を入れてほしい。

 明治期に日本初の公立絵画専門学校として始まり、創立140年を超える市立芸大は、著名な芸術家だけでなく、一般企業でものづくりを支える人材も多く輩出してきた。

 近年では、アニメやゲームなど日本が世界から注視される業界で活躍する卒業生も目立つ。こうした実績や多様な学びを、市民に広く認識してもらう情報発信と透明性が欠かせない。

 西京区の旧キャンパスをどうするのかも注目される。市は跡地での事業内容の提案と、活用を担う民間事業者を本年度中に決める方針という。芸術や文化の拠点となる活用法を望む地元住民の意見も踏まえ、市西部の再活性化に役立つよう効果的に生かしたい。

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