朽ちゆく水道管 旧海軍の施設も 交換して安定供給?それとも料金維持? 自治体はジレンマ 大規模断水の波紋 

10月1日、広島県大竹市で発生した断水についてです。まだ暑い時期でしたが、大半の世帯で水道の水が止まり、大きな影響が出ました。原因となった水道管の老朽化は全国的な課題で、水道料金と切っても切れない問題でもあります。暮らしに欠かせない水道をどう守っていけばいいのか、考えます。

断水が発生したのは10月1日の未明。日曜日の市民生活を直撃しました。

大竹市民
「もうね、けさ私が起きたのが4時ですから、4時にはたまった水が少し出た。だけど、いつもより勢いがなかったから、おかしいな、故障したのかなと思って」

大竹市の全世帯のおよそ75%にあたる9000世帯が断水。臨時の給水所には長い列が出来ました。

大竹市民
「ご飯はもうある物、もう水を使わない、お皿とか洗わないで済むような物にしました」

その日の夜には断水は解消されましたが、影響はほぼ丸1日続きました。

この大規模な断水をもたらしたのは、水道管の老朽化です。「基幹管路」と呼ばれる大元の配水管が朽ちて、漏水したのが原因でした。

記者
「こちらが今回漏水した配水管の一部分です。切り取られた、ほん一部分なんですけど、鋳鉄製ということでかなり重いです。そして、この内側が、水が通る部分なんですけども、敷設から70年以上経っているということで、かなり腐食が進んでいます」

大竹市によると、こうした鋳鉄製の水道管の更新基準は50年ですが、この配水管は1950年頃に敷設され、70年以上経っていました。

大竹市上下水道局 中司和彦 工務課長
「水道を利用される皆様に大変なご不便、ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」

大竹市は長さ200キロ以上ある配水管の更新が遅れていることを認めました。

中司課長
「市内の管路延長に対して年1%、約2キロぐらいを目標に老朽管路の更新工事を行っていくという計画にしてるんですけども、ちょっと追いついてない、目標に届いてないという状況でございます」

水道管の更新の遅れは全国的な課題です。法定耐用年数の「40年」を過ぎた水道管の割合=老朽化率と、更新率をグラフに示すと、ご覧の通り。老朽化は進む一方なのに、更新のペースは逆に落ちていることが分かります。

背景には、高度成長期に敷設した水道管が一斉に古くなる一方、人口減少のため水道料金の収入が減り、技術者の人手も不足していることがあります。さらに大竹市では、歴史的ないきさつも影響しています。

記者
「こちら防鹿水源地は小瀬川の伏流水をくみ上げて、ろ過する役割を担っています。大竹市の最も重要な水道施設の1つですが、戦前の旧海軍省から譲り受けたもので、完成から80年以上経っています」

大竹市の水道事業は戦前、旧海軍省の大竹海兵団が手がけていました。小方配水池も譲り受けた施設で、マンホールには今も「いかり」のマークが残っています。

こうした事情もあって、大竹市の水道管の老朽化率は県内ワーストの47.2%。同じく海軍ゆかりの呉市と比べても、深刻です。更新のペースを上げる必要はないのでしょうか?

中司課長
「(全体の)年間1%、管路更新をしていくという経費を見込んでいるんですけれども、たくさんやるということになれば、料金の改定率にも影響してくる、という風に考えています」

水道管を更新するコストが増えれば、その分、水道料金を値上げせざるを得ないといいます。

全国的に見ると、実際に値上げした自治体が少なくありません。例えば、静岡県御前崎市は45.6%、福岡県飯塚市は35%などと水道料金の大幅な値上げに踏み切っています。

水道管の更新と料金の維持。その両立を目指す、新しい取り組みも始まっています。

廿日市市の担当者
「広島県の水道の企業団というのを設立しまして、これまで以上に管路の更新の方を加速的に行っていこうと」

今年度から事業を始めた「広島県水道広域連合企業団」には、廿日市市や東広島市など14の市町と県が参加しています。

企業団に入れば、水道管の更新に国の交付金を使えるようになったり、浄水場を統廃合してコストを削減できたりするメリットがあります。

広島県水道広域連合企業団 沖辺竜哉 事務局長
「単独の市や町が継続的に事業実施していくということよりも住民の皆様の利用料金の負担というものを抑えながら、安定的に水をお届けすることができると考えているところでございます。このたびの断水につきましては、かなり規模の大きなものでございましたので、私どもといたしましても、安定給水というものについては、改めて意を強くしたというところでございます」

中根夕希アナウンサー
「VTRで紹介した広島県水道広域連合企業団についてこちらにまとめました。14の市町と県の水道事業を経営統合することでコスト削減や国の交付金の活用が可能になります。これによって、2032年度には1立方メートル当たり平均で280円になる見込みだった水道料金を、35円安い245円以下に抑制できる見込みです。4人家族の1か月の使用量=30立方メートルに換算すると、1050円の負担減ということになります」

青山高治アナウンサー
「1年間で1万2600円は大きい。大竹市など他の自治体はなぜ入らないんですか?」

中根アナウンサー
「それぞれ理由は異なりますが、大竹市は企業団との『水道料金の違い』を上げています。20立方メートルまでの使用料金を見ると、大竹市は2425円。これに対し企業団の市町は最も安い竹原市でも3036円で大竹市より高く、最も高い江田島市の5049円とはおよそ2倍の差があります。大竹市は『企業団に入れば水道料金の値上げにつながる可能性がある』とみています。一方、企業団では『水道料金は従来通り各市町で設定していて、料金の統一は将来的な課題』としています」

NPO法人ひろしまジン大学 平尾順平 代表理事
「水道料金がこんなに市町で差があることにも驚きましたが、安心のために値上げしてでも断水が起きないようにしておくかは、かなり難しい選択だと思う。公共インフラは今、水道だけでなく道路や橋も老朽化する中で、どこかで直さなければ。私たちが向き合わなければならない事実だと思います」

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