京アニ放火殺人事件裁判、23日から刑事責任能力の審理へ 注目される精神鑑定医の証言

青葉真司被告

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判は、23日に開かれる第13回公判から、最大の争点である刑事責任能力の審理に移る。事件当時、青葉被告にどのような妄想があり、どう犯行に影響を与えたのか。精神鑑定をした医師の証言が注目される。

 ■争点になっているのは 

 争点になっているのは責任能力の有無や程度。23日の公判では、9月5日の初公判に続いて2回目の冒頭陳述が行われる。検察側、弁護側それぞれが責任能力に関する主張、立証内容について説明する。その後、証人として鑑定医2人が出廷し、尋問などが予定されている。

 ポイントは青葉被告にあったとされる妄想をどう評価するかだ。これまでの公判で青葉被告は「(京アニに)小説のアイデアを盗用された」との主張を繰り返している。弁護側は「『闇の人物』と京アニが一体となって嫌がらせしていると思った」とし、「(放火は)人生をもてあそぶ闇の人物への反撃だった」と述べた。事件当時、妄想の影響で責任能力がなかったとして、無罪を主張。有罪でも刑は減軽されるべきだと訴える。

 ■検察側は完全責任能力があったとの見方

 一方、検察側は妄想があったことは認めつつ、「妄想に支配された犯行ではない」と指摘。自己愛的で他人のせいにしやすいパーソナリティー(思考や行動の傾向)が表れた「筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)」として、完全責任能力があったとみる。放火する直前、青葉被告が実行するかどうかためらい、引き返す選択肢があった点も重視する。

 精神鑑定を多く手がける聖マリアンナ医科大の安藤久美子准教授(犯罪精神医学)は「妄想が現実に基づくものなのか、それとも現実とかけ離れたものなのかが、責任能力の判断を大きく左右する」と話す。見極めるには生活歴をたどり、妄想的な考えや奇異な言動がいつから、どの程度生じていたのかを精査していく必要があるという。

 

 責任能力の判断には、善悪を理解し、行動を制御できたかどうかが問われる。安藤准教授は「やってはいけないことと分かっていても、妄想がその人の思考を支配し行動を抑えられないケースもある」と指摘。その場合、やらなければ自分の身に危険が及ぶなど、いかに切迫した状況であったかも一つの着目点という。その上で「妄想が訂正できないほど確信度の高いものなのかも踏まえ、妄想と責任能力の関係を総合的に判断することになるだろう」とする。

 ■判決は来年1月

 公判は責任能力に関する審理を経て、11月6日に中間論告、中間弁論を行う。11月下旬までに裁判官と裁判員が中間評議(非公開)で責任能力の有無や程度について結論を出す。この結論は来年1月の判決で明らかにされる。

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