障害ある人に働く機会を 長崎の元エンジニア、事業所つなぐ団体発足 平和テーマの紙袋完成 

手作りしたアクリル製の箱を持つ梅川さん(前列左から2人目)と、完成した紙袋を手に笑顔を見せる利用者ら=長崎市住吉町、就労継続支援B型事業所「たまご」

 長崎市内で複数の障害福祉サービス事業所がそれぞれの強みを生かし、一つの商品を作る仕組みづくりが進められている。「つなぎ役」は、元自動車エンジニアの男性が4月に発足させた市民活動団体「7%er(7パーセンター)となかまたち」。第1弾として知的障害など障害特性のある作家が平和をテーマに描いたイラストを基に紙袋製作に取り組む。組み立て作業にはエンジニアとしての創意工夫も見られる。
 9月下旬、同市の就労継続支援B型事業所「たまご」。利用者が平和祈念像や折り鶴が描かれた紙を手順に沿って紙袋に仕上げていく。「作家さんも作る人も喜んでくれるのがうれしい。可能性が広がる」。仕掛け人で同市の元自動車エンジニア、梅川健治さん(61)は目を細める。
 梅川さんは大学卒業後、国内の大手自動車メーカーに入社。関東で7年間働き、バンパーなど樹脂部品の設計・開発に携わった。同社を辞め、1991年、長崎に戻ってからは発電プラント関連のエンジニアとして働いた。
 「畑違い」の福祉の世界に関わったきっかけは長女華奈さん(26)の存在。華奈さんは自閉症で、長崎市内のグループホームで暮らしながら事業所に通うが、子どもの頃から絵を描くのが好きだった。
 「障害のある子どもたちの才能を生かして就労につなげられないか」。梅川さんは3年ほど前、複数の事業所が協力し、一つの商品を製作する仕組みがあれば可能性が広がると考えた。調べてみたが、市内では見当たらず「自分でやるか」と今春の定年退職を機に一念発起。友人らに呼びかけて「7%er-」を発足させた。
 「7%」は日本の総人口に占める障害者の割合という。あえて障害者という言葉は使わず「7%er」と表現し、「なかまたち」は家族や事業所職員、支援者らを表している。

 梅川さんが手がける「平和と福祉がコラボした」紙袋製作。長崎の被爆者にスポットを当てたドキュメンタリー映画「長崎の郵便配達」の県内上映に関わったことがヒントになった。「障害者の皆さんの才能と創造力を生かし、紙袋という形で平和のメッセージを発信したい」。長崎平和推進協会の助成事業「秋月グラント」に申請。6月に助成が決まり、来年2月までに計400袋を無料配布する計画だ。

アクリル製の箱から紙袋の形状となった紙を引き抜く利用者ら=長崎市住吉町、就労継続支援B型事業所「たまご」

 県内の作家7人に声をかけ、イラストを依頼。印刷物やデザインを扱う同市の「そよ風の里プラスワン」が印刷を担当する。組み立ては「たまご」のほか、同市の「ワークステーションかいこう」も担う。紙袋には作家や事業所の「顔」が見えるよう情報にアクセスできるQRコードを付けている。
 一般社団法人「たまご」の中原圭子代表理事は「互いに持てる才能を混ぜ合わせることで長崎がもっと魅力的になれる」と語る。
 組み立ての工程にも梅川さんのこだわりが。「誰でも間違わずに作業ができるように」と製作器具を手作りした。紙袋のサイズに合わせたアクリル製の四角い箱に紙を磁石で固定し、のり付けした後に箱から引き抜くと紙袋が出来上がるという流れだ。作業手順を簡略化する自動車製造のノウハウが生かされている。
 紙袋は年内の配布開始に向け調整中。今後、農産加工品など新たな商品開発を進めながら、顧客獲得に向けた動きを本格化する。
 「企業・団体へのコラボ商品の提案などを通し事業所の新規の仕事を増やし、利用者の工賃の向上につなげたい」。梅川さんは新たなビジネスモデルの構築に意気込んでいる。
 「7%er-」のホームページには、「長崎の郵便配達」の川瀬美香監督と、長崎市出身のシンガー・ソングライターさだまさしさんからの応援メッセージも掲載している。

© 株式会社長崎新聞社