社説:ライドシェア 利点欠点、慎重に検討を

 個人がマイカーを使って客を有償で運ぶ「ライドシェア」を巡り、岸田文雄首相が臨時国会の所信表明演説で導入の検討を打ち出した。

 観光地などでのタクシー不足に対応するためだが、安全面への懸念は根強い。「解禁」には乗り越えるべき課題が多く、安全を最優先に議論を進めたい。

 ライドシェアは、スマートフォンアプリを通じ、車を所有する一般ドライバーと乗客を結び付ける仕組みだ。利便性の良さから米国や中国などで普及している。

 しかし、日本ではタクシー乗務に普通2種免許を要する。「白タク」に当たるとして道路運送法で原則禁止としている。だが、菅義偉前首相らが規制改革の一環として解禁を提唱し、デジタル行財政改革会議も議論を始めた。

 岸田首相はおととい、「ライドシェアの課題に取り組む」と表明し、自ら各分野の意見を聞いて制度設計に生かす考えを示した。

 タクシー業界の深刻な人手不足が背景にある。高齢のドライバーがコロナ禍を機に退職し、4年間で約2割減った。一方で訪日観光客が戻り、京都などタクシー待ちの列が連日できる観光地も多い。

 原則禁止のライドシェアだが、交通手段が不十分な過疎地域などでは、例外的に一般ドライバーによる「自家用有償旅客運送」を認めている。京都府内でも京丹後市などで運用例が増えてきた。

 この制度を都市部にも適用する形で、タクシーが足りない地域や時間に限定して認める案が浮上している。いわば「日本版ライドシェア」である。予約や配車が簡単で、新たな移動手段として選択肢が増える期待がある。

 だが、最も気がかりなのは安全性だ。プロの運転手ではなく、不適性や経験不足から事故リスクが高まらないか。健康管理や車両整備の責任を誰が負うのかといった懸念が拭えない。

 タクシー業界への影響も無視できない。酒気帯びチェックなど運行管理や配車をタクシー会社に委託し、安全性を確保するといった仕組みは検討に値しよう。

 京都市では混雑緩和の実証実験として、目的地が同じ観光客をまとめる乗り合いタクシーの運行や、乗客を観光地で降ろして荷物だけをホテルに運ぶ「貨客混載」に取り組む。運転手の増加策や運賃制度の見直しを含め、幅広い選択肢を検討したい。利点、欠点を見極め、新たな交通サービスの可能性を探る価値は大きい。

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