【インドネシア】大統領選、候補3組出そろう[政治] ジョコ氏長男は副大統領で出馬

来年2月に実施されるインドネシア大統領選挙の候補者が25日、出そろった。19日に始まった立候補期間の初日にガンジャル・プラノウォ氏(中ジャワ州前知事)とアニス・バスウェダン氏(首都ジャカルタ特別州前知事)がそれぞれの副大統領候補と中央選挙管理委員会(KPU)に出馬登録したのに続き、最終日の25日にプラボウォ・スビアント氏(国防相)が届け出た。プラボウォ氏とペアを組む副大統領候補は、ジョコ・ウィドド大統領の長男ギブラン・ラカブミン氏(中ジャワ州スラカルタ=ソロ=市長)。選挙運動は11月28日に解禁される。

インドネシアの大統領選は、正副大統領候補の組み合わせを国民が直接選ぶ方式で、3組のペア(届け出順)は、◇アニス氏とムハイミン・イスカンダル氏(国民覚醒党=PKB=党首)◇ガンジャル氏とモハマド・マフッド氏(調整相=政治・法務・治安担当)◇プラボウォ氏とギブラン氏——。大統領の任期は5年で再選1回までのため、来年の大統領選挙は2期務めたジョコ氏の後任選びとなる。

選挙運動期間は11月28日~来年2月10日で、同月14日が投票日となる。投票の結果、50%以上の票を獲得し、さらに国内全州のうち少なくとも半数以上で最低20%の票を得たペアが当選となる。条件をクリアするペアがいなければ来年6月に上位2組で決選投票が行われる予定。KPUの7月の発表によると大統領選挙の登録有権者数は2億481万人。

また正副大統領候補の擁立には、2019年の総選挙の結果で国会議席を20%以上保有する政党もしくは政党連合であることなどが条件となっているため、今回出馬した3組の各ペアには支持政党が付いている。

「アニス=ムハイミン」ペアは、連立与党のナスデム党とPKB、野党・福祉正義党(PKS)の3党による政党連合「変革の連合」が擁立した。このペアについて、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の水野祐地氏(地域研究センター・東南アジアI研究グループ)は、アニス氏の保守派イスラム教徒からの人気と国内最大のイスラム大衆組織であるナフダトゥール・ウラマ(NU)系のPKB党首のムハイミン氏の支持基盤を生かし、イスラム的に敬虔(けいけん)な層の票を集約する潜在力があるという。

「ガンジャル=マフッド」ペアは、ガンジャル氏が所属する最大与党の闘争民主党(PDIP)が選出した。水野氏によれば、このペアは闘争民主党の支持層である世俗層をベースとしつつ、ガンジャル氏が9月まで知事だった中ジャワ州、マフッド氏の出身の東ジャワ州という大票田に強みを持つ。

「プラボウォ=ギブラン」ペアは、与党・第2党のゴルカル党やプラボウォ氏が党首を務める与党・第3党のグリンドラ党のほか、与党・国民信託党(PAN)、野党・民主党など計9党が参加する政党連合「先進インドネシア連合(KIM)」が擁立した。水野氏はこのペアについて、プラボウォ氏の知名度の高さに加え、ギブラン氏がパートナーとなったことで支持率の高いジョコ大統領が実質的に推す候補となったため強力なペアになるとみている。

25日の立候補受付最終日に登録したプラボウォ氏は、公式インスタグラムに「私とギブラン氏は、インドネシアの全ての人々の祈りと祝福を求め、われわれの心身を国家と人々に捧げる」と投稿した。

■ギブラン氏の出馬容認には批判も

これまでの世論調査では、プラボウォ氏とガンジャル氏の支持率が拮抗(きっこう)し、アニス氏をリードする結果が続いてきた。選挙戦の行方としては、ジョコ大統領が、自身が所属する闘争民主党の候補者であるガンジャル氏ではなく、14年と19年の大統領選挙で争ったプラボウォ氏を実質的に支持していることに注目が集まっている。ギブラン氏が、プラボウォ氏とペアを組んだこともその要因となっている。

ただ、現在36歳のギブラン氏は、もともと正副大統領に立候補できる年齢を40歳以上に制限した総選挙法『17年第7号』が出馬の障壁だったが、憲法裁判所が16日に地方首長への選出経験があれば出馬資格を有すると判断したため、出馬が可能となった。さらにこの裁判で、ジョコ氏の義弟が裁判長を務めたことなどが反発を招いている。

インドネシア専門コンサルティング会社、松井グローカルの松井和久代表は、「憲法裁の判決は権限逸脱との指摘に加えて、憲法裁長官がジョコ氏の義弟という関係から相当の批判が出ている」と指摘。またガンジャル氏とペアを組むマフッド氏は法学者で元憲法裁長官であることから「その言動いかんでは判決を批判する有識者や学生らを取り込むだろう。ジョコウィ(ジョコ大統領の愛称)路線の継承を大前提としつつも、『ジョコウィ王朝化』批判は無風と思われた選挙風景を一転させる可能性を秘めている」と話す。

水野氏は「ジョコ大統領は任期満了後も一族を通じて政治権力を維持することを狙っているとみられている」と指摘。「闘争民主党ではメガワティ党首の権威が絶対だが、ジョコ氏自身が高い世論の支持率を得ていることなどから、ジョコ氏は独自の権力基盤を構築することをもくろんでいるものと思われる。これにより、今回の選挙は『ジョコ対メガワティ』の主導権争いが動向を左右する重要な要素となる」と話す。

一方、経済的な政策について水野、松井両氏ともに、有力候補のプラボウォ、ガンジャル両陣営ともジョコ大統領の路線継承が基本になるとみている。水野氏は「川下産業の育成を通じた高付加価値化や外資の積極的な誘致といったジョコ政権の戦略を大きく変えることはないと予想される」とコメント。松井氏は「新首都建設やインフラ整備へさらに外資導入を図ろうとする一方、国内産業優先の傾向はより強まるのではないか」とみている。

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