社説:国会論戦 首相は逃げずに答弁を

 臨時国会で、岸田文雄首相の所信表明に対する各党の代表質問が始まった。

 首相は「経済」を連呼し、物価高対策として「税収増の還元」を掲げるなど経済対策を重視すると強調した。当然、代表質問で中心テーマとなったが、首相は具体的な内容には踏み込まず、あいまいな答弁に終始している。改めなければ、国民の信頼は回復しないと知るべきだ。

 立憲民主党の泉健太代表は、減税は実現まで時間がかかることも踏まえ、経済対策の遅さを指摘。年内に全世帯の6割に3万円を「インフレ手当」として給付すべきだと訴えた。

 与党に所得税減税の検討を指示しながら、所信表明では言及しなかった点も問題視したが、首相は「所得減税を含め、早急に検討を進める」とだけ答えた。

 一方で、政府内では所得税を1人当たり年4万円減額し、非課税世帯に7万円を給付する案が浮上している。これでは何のための国会審議なのか。

 1千兆円超の財政赤字を抱える中、防衛費「倍増」のための増税を打ち出しつつ、減税を言う矛盾の追及も首相はかわし続けた。

 年3兆円半ばの追加予算が必要となる少子化対策の財源確保でも「先送りしたとの指摘は当たらない」と述べたが、いまだに具体策は示していない。

 衆院の解散・総選挙を視野に、「減税」の看板を掲げ、今後の増税を覆い隠す狙いが透ける。

 マイナンバーカードと一体化して現行の健康保険証を来秋に廃止する方針では、「さらなる期間が必要と判断された場合には必要な対応を行う」と含みを持たせた。混乱は収拾しておらず、国民の不信感は強い。方針は撤回すべきではないか。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題で、財産保全のための議員立法を超党派で成立させるべきと野党が呼びかけたが、「各党の動きを注視していく」と述べるにとどまった。

 岸田政権はこれまでも安全保障関連3文書や原発推進などの重要施策を、国会閉会中に決めてきた。国民の前で議論を深めなければ、理解の広がりようがない。

 共同通信の世論調査では、岸田内閣の支持率は過去最低の32.3%に沈んでいる。立法府を軽視し、丁寧な説明を欠いてきたことは低迷の大きな要因ではないか。

 財政健全化を含め、首相は率直な言葉で逃げずに語ってほしい。

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