造船業で全国初取得!外国人労働者資格「特定技能2号」とは? ベトナム人3人の仕事ぶりに密着 人材不足が深刻な地方で戦力として期待

さまざまな業界で人手不足が課題になるなか、外国人の労働者が永住することもできる在留資格の一つ「特定技能2号」を深掘りします。瀬戸内海沿岸の主要な産業「造船」の分野で、広島県尾道市の会社から「全国初」の取得者が同時に3人誕生しました。

火花を散らして鉄の部材を溶接しているのは、10月10日に「造船・舶用工業分野」で特定技能2号を取得したベトナム人の男性3人です。

尾道市にある造船会社「因島鉄工」で、午前8時から午後5時まで、正社員として働いています。造船業は現在、人材不足に直面しています。

因島鉄工でも従業員およそ80人のうち、外国人人材が半分を占めます。会社としても外国人労働者を長期雇用する環境が求められているのです。

3人は特定技能2号を取得したことで、日本に永住できるだけでなく、家族を母国から呼べるようになります。

グエン・フー・タイさん
「特定技能2号試験に合格してできて、今までうれしくて幸せです。40歳とか50歳とか(まで)、働きたいです」

ファン・ヴァン・マインさん
「(ベトナムにいる妻と)5月から結婚しています。新婚です。新婚が(笑)。奥さんに日本に連れてきたい。そして日本にずっと働けます」

グエン・ヴァン・チャイさん
「仕事で日本語もがんばります。毎日、ちょっとだけ(勉強します)」

そんな3人を一緒に仕事をしている同僚はどのように見ているのでしょうか?

■会社は「後継者としても期待」 日本の歌にも親しんで

因島鉄工 村上明宏 製造部長
「この2号を取ったことによって、彼らのモチベーションが上がったといいますか、仕事に対しても難しいことにチャレンジしようとする姿勢が芽生えてきた」

3人は、因島鉄工が培ってきた技術の継承者としても期待されています。仕事では緊張の連続ですが、それぞれ息抜きがあるようです。3人は同じ寮で過ごしています。

タイさんの趣味は歌…。動画投稿サイトで、日本の歌にも親しんでいるそうです。菅田将暉 さんの「虹」を披露してくれました。

タイさん ♪虹
「泣いていいんだよ そんなひとことに ぼくは救われたんだよ ホントにありがとう」

チャイさんの部屋です。入って目に飛び込んできたのは、数種類の釣り竿です。

チャイさん
「お休みの日、釣りに行きます。(釣り竿は)日本で買った。魚とイカ(を釣る)。夜はイカ釣ります」

仕事に真剣に向き合い、余暇も楽しんでいる彼らですが、やはりベトナムにいる家族のことが気になります。

タイさんが電話で話しているのは、ベトナムにいるお姉さんです。

タイさん
「今ね、母は姉さんと住んでいるので。最近、母は健康がちょっと悪いです。先月、入院しました。さきほど、姉さんに聞きました。最近は母の健康はどうですか。治しましたか。あすは母は退院です。…よかった」

3人は寮の中のキッチンで自炊をしています。この日、マインさんが昼食で食べていたベトナムの煮込み料理「ボーコー」は朝6時に作ったといいます。牛肉・ニンジン・タマネギ、そして牛乳を入れてベトナムの甘い調味料を加えて煮込むんだそうです。昼ご飯だけでなく、晩ご飯も併せて作るそうです。

因島鉄工には4つの寮がありますが、宗教を背景に食べ物や習慣が異なることから、ベトナムとインドネシアの社員を国別に分けて用意しているといいます。さらに、支援は寮だけではありません。

会社はおよそ20年前から昼休憩の時間を使って日本語教室を毎日、開催しています。教えるのは、社長の妻の 宮地愛美 さんです。学ぶのは、2号の彼らだけではありません。因島鉄工の下請け企業で働く外国人労働者も加わります。この日は10人が参加しました。

宮地さん
「読めますか」「じゃあみんなで読んで。左から」

外国人労働者たち
「春、夏、秋、冬。日本には四季があります」

1時間の昼休憩のうち30分を勉強に…。参加者の表情も真剣です。

3人は、「造船・舶用工業分野」で全国初の2号…。つまり、過去問題はありません。そこで、因島鉄工は厚生労働省が公開している外国人労働者向けの教育教材を基にして、独自にオリジナル問題を作成しました。

なぜ、手厚い支援で外国人材を育成しなくてはいけないのか…。宮地秀樹 社長は、造船業の将来に不安を抱えています。

因島鉄工 宮地秀樹 社長
「人材不足というところが今後ももっと、もっと大きくなるんじゃないかなと思っておりますね。いままで1号じゃったら、5年で帰らないとあかんのよね。これ(2号)を取ったことによって、そのまま会社におってもらったら、たいへん大きなメリットとなると思います。うちで働いて帰られるよりも、そのままずっと続けておってもらったら、将来のうちの幹部となってもらえるメリットがありますよね。今、少子化で日本人おらんのんですわ。だから彼らが中心となって、幹部となってもらっていくことが会社の存続につながる」

人口減少の打開に、戦力として期待される外国人労働者。そんな彼らも個々の労働者としての横顔がありました。彼らが働きやすい環境を整えて初めて彼らの能力が輝くのではないでしょうか。

外国からやってきた労働者の「技能実習生」は聞かれたことがあるかと思います。制度としては、あくまでも「実習」なので、日本で技術を学び、いずれは母国に帰ることになります。

一方、今回の3人のように「特定技能2号」を取得すると在留期間の定めがなくなるため、条件を満たせば永住もできるようになります。さらに、家族を呼び寄せることもできます。実質的に外国人労働者を受け入れる制度ともいえます。

こうした外国人労働者を受け入れることは、企業だけの問題ではなく、その人たちが暮らす地域でも考えていく必要があるのではないでしょうか。

© 株式会社中国放送