「世界のトヨタ」支えるのは鉛筆削りの技術? 最終チェックは“人間の感覚“ 最先端車の生産現場  

世界販売台数は4年連続世界一、今や名実ともに世界一の自動車メーカーとなっている「トヨタ自動車」。グループ全体で37万人を超える従業員の中には、卓越した技術を持つ職人が数多くいます。すご腕職人が働くトヨタの新車開発の「中枢」を取材しました。

合格点が出るまで試験を繰り返す日々…‟最後は一人の人間の感覚”

愛知県豊田市と岡崎市の境、山の奥深くにある施設「テクニカルセンター下山」は、トヨタが約3000億円もの巨費を投じて作った新型車の研究開発施設です。

(チーフエキスパート 阿比留和昭さん)
「試験車を評価するときの部品の組み換えなどをここでやっていく。世に出ていない車を基本的には扱っている」

阿比留和昭さん(54)は、販売前の試験車の安全性や耐久性をチェックする「総合評価」と呼ばれる仕事を30年以上続けています。部品ごとに決まっている耐久性や安全性の基準を守り、合格点が出るまで徹底して試験を繰り返す毎日。最先端技術の粋を集めた車も、最終チェックは‟一人の人間の感覚”で行われるのです。

(チーフエキスパート 阿比留和昭さん)
「『官能評価』の職場なので、エンジンをスタートして目的地について休憩するとか、いろんなシチュエーションがある。こういう手の動かし方をするのではないか、この隙間が狭いのではないかとか、アクセルを全開に踏んでも思ったより出足が悪いだとか」

牛柄マスキング!? テスト車に貼るカモフラージュの模様を考案

阿比留さんが12年前に手掛けた、現在の新型車開発に欠かせないものがありました。

(チーフエキスパート 阿比留和昭さん)
Qこれは何ですか?
「クラウンクロスオーバーという車。牛柄マスキングと呼んでいるが、それを貼ったもの」

試作車を公道でテストする際、車体の形がバレてしまわないための‟カモフラージュ”。シマウマが白黒の縞模様でライオンの目を欺くように、模様があることによって、人の目では車体の形が分からなくなるのです。阿比留さんは、このカモフラージュの初代となる「渦巻き柄」を11年前に開発しました。

(チーフエキスパート 阿比留和昭さん)
「最初はテストのつもりで作ったら、そのまま商品になっちゃった。渦巻きじゃなくてもよかった。『誘目性』というのがあれば、基本的には変な模様があれば」

この車は、2022年「新型クラウン」として発表されました。何度もテスト走行を重ね、乗り心地などを細かくチェックした後、ようやく世に送り出されたのです。

(チーフエキスパート 阿比留和昭さん)
「大事なのは、われわれが持っている技能を最大限発揮してもらうタイミング。『みんながやらなくちゃいけない』とか、そういうことだと思う。それを伝えるのが、自分の役割」

100分の1ミリの精度! 木型を作るプロフェッショナル

一方、愛知県みよし市にある明知工場では『鉛筆削り』に打ち込む人がいました。剣持正光さん(64)です。鉛筆削りは木を正確に削る感覚を常に養うために必要不可欠です。自動車に木が使われることはほぼありませんが、なぜ、木を正確に削る感覚が必要なのでしょうか。

(シニアエキスパート 剣持正光さん)
「大工は家を造ればそれが製品になるが、われわれは『型』を作っても商売にならない。これを使った素材ができた時に、初めて商売が成り立つ」

剣持さんが見せてくれたのは、昔のエンジン部品。エンジンはまず、木から削り出して各部品の正確な「型」を作ります。木型を砂の中に埋め込み、取り外した空洞部分に溶けた金属を流し込んで部品を作るのです。

(シニアエキスパート 剣持正光さん)
「これでも1つ、2つ、3つ、4つ…(重ねている)。4つで『コンマ1』狂っていたら、『コンマ4』狂うことになっちゃう。部品を全て作るときには、プラスマイナス100分の3とかで作り上げる」

自動車の心臓であるエンジンに要求される精度は、100分の1ミリ。流し込んだ鉄やアルミが固まる時にわずかに縮むことまで計算し、木型を手作業で削り出す必要があります。

(シニアエキスパート 剣持正光さん)
「作ったからすぐ製品になるかというと、相当先の話。型というのは、なかなか理解できない世界」

原点の「人力織機」を復元!「先人の技術と挑戦を後進に伝えたい」

これまで、様々なエンジンの木型を作り続けてきた木の匠、剣持さん。その経験と匠の技を活かして、いま取り組んでいる事があります。トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎の父、豊田佐吉が130年以上前の1890年に発明した「豊田式木製人力織機」の複製です。

(シニアエキスパート 剣持正光さん)
「自分が経験したことのない工程がいっぱいある。最終的に作り上げられるか、めちゃめちゃ不安だった。どちらかといえばチャレンジしていきたい」

自ら三次元のソフトを使って図面を書き起こし、削り出す部品によっては0.02ミリという精度が求められる中で、数年かけて完成にこぎ着けました。「電気自動車」「自動運転」「IT化」など、100年に1度の変革期と言われる自動車業界ですが、そのベースを支えているのは今なお「人間の感覚」なのです。

(シニアエキスパート 剣持正光さん)
「100年前に織機から車業界に変わった。本職の織機を倒す勢いで、チャレンジしながら車に変えていった。先輩たちは100年前にそれをやっている。だから、われわれができないわけがない。大変だけど、これからモビリティ企業になると勇気を持って、自信を持っていこうと、こういうものを通して伝えたい」

先人たちの挑戦と多くの匠ともいえる技術で進化してきたトヨタ自動車。これからもその変革は後進に伝えられ、続いていきます。

CBCテレビ「チャント!」10月18日放送より

© CBCテレビ