「故人とゆっくりお別れ」エンバーミング利用広がる 青森県内 施術件数、当初予想上回る

「エンバーミングの良さを、遺族の方に理解してもらっている」と話すリンクモア平安閣の船水専務=11月2日、青森市のエンバーミングセンター

 遺体に防腐処置を行い、生前に近い姿に近づける「エンバーミング」の施術センターが青森市に開設されて5カ月。施術件数は10月末で61件と、当初予想よりも高い水準で推移している。関係者は「故人と遺族がゆっくりとお別れできるエンバーミングの良さが伝わっている。本県でも定着するのではないか」と語る。

 施設は葬祭業「リンクモア平安閣グループ」が、国の「事業再構築補助金」(4千万円)を活用し、遺体安置施設(3室)とともに県内で初めて整備。6月15日に稼働した。

 同月は1件の施術にとどまったが、7月は10件、8月は21件に増えた。9月は13件、10月が16件だった。1日に3件実施した日もあった。

 同社が6月15日から10月末までに依頼を受けた葬儀226件のうち、エンバーミングを実施した割合は27%。遺族からは「故人が眠っているよう」「生前の姿に近い故人とお別れできて良かった」との声が届いている。

 同社の船水真悟専務は「8月は暑さで遺体が傷みやすかったことや、斎場が混んでいた影響で施術件数が多かった」と説明。「エンバーミングの良さが徐々に伝わったため、9月や10月になっても件数が落ちなかった」と推測する。

 施術を行うエンバーマー(民間資格)は、県内にいないため、リンクモアとともにエンバーミング事業を行う「センティスト」(仙台市)から派遣される。同社エンバーマー諸隈智さんは「5カ月で61件の実施はとても多い数字。青森では火葬の後に葬儀を行うケースが多いが、エンバーミングされる方の多くは葬儀の後に火葬する。青森の慣習を越えてきていることはとてもすごいことだと思う」と語った。

 リンクモアによると、センター構想を公表した3年前は、周囲から「冷涼な気候の青森県でエンバーミングは定着しない」との声があった。センター開設後、月10件以上のペースで施術依頼があることに関係者から驚きの声が上がっているという。

 リンクモアの船橋素幸社長は「エンバーミングは悲しみに寄り添うグリーフケアの一環。新しい葬送儀礼として定着すると思う」とし「県内で外国人が亡くなった場合、施術して母国に遺体を送ることができる。依頼は増えていくだろう」と述べた。

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エンバーミング 遺体を薬剤で長期保存できるようにする特殊な技術で、健康だった頃の姿に近づける。国内では1988年に埼玉県で初めて行われ、実施件数は増える傾向にある。2022年度の実施数は約7万600件。10年前の2.7倍に増加した。

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