俵万智さんが語る「サラダ記念日」作品の原点 福井で15年ぶり里帰りトーク「心からの言葉を紡ぎたい」

古里への思いを語る俵万智さん=11月5日、福井県福井市の県立図書館

 福井県福井市の県ふるさと文学館で歌業をたどる展覧会を開催中の福井ゆかりの歌人、俵万智さんのトークイベントが11月5日、県立図書館で開かれた。中学高校時代を過ごした福井の思い出を存分に披露。歌集「サラダ記念日」でデビュー以来36年間、歌壇で存在感を放ち続ける口語短歌の第一人者は「心からの言葉を紡ぎたい」と信条を語った。

 文学館の「俵万智展」の特別企画。第7歌集「アボカドの種」発刊や紫綬褒章受章とニュースが続く中での開催とあって、15年ぶりに里帰りした“時の人”に会おうと約190人が会場を埋めた。

⇒「サラダ記念日」から36年…歌人・俵万智さんの歩みたどる企画展 古里の福井県で開幕

 大阪から武生市(現越前市)に引っ越し、武生一中から藤島高に進んだ俵さん。福井鉄道福武線の2両編成の電車で最寄りの田原町駅に通った日々を思い起こし「足が不自由な子をおぶった母親が毎朝同じ駅から乗ってきた。親子のために席を空けておく乗客同士の暗黙の了解があった。福井の人は優しい」と懐かしんだ。大失恋をして演劇部員に慰めてもらった出来事も振り返り、今も交流が続く当時の仲間を「人生の宝物」と表現した。

 早稲田大に進むと、ホームシックの心境を家族に宛てて連日はがきに書いた。「離れて古里の良さが分かった。はがきに短歌の種がいっぱいまかれていた」と俵さん。「サラダ記念日」所収の〈なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き〉の原点になったとした。

 「(既存の)言葉から言葉を紡ぐことはAI(人工知能)にできる。日常を見つめ、心から言葉を紡ぐことは人間にしかできない」。新作の〈言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ〉に込めた信条を披露した。

 トーク映像は12月1日から俵万智展の会場で上映される。

© 株式会社福井新聞社