高齢ドライバーで多発「ペダル踏み間違い」による重大事故…「技術で防止」か「自動運転」に身を委ねるのか?

判断力が衰える高齢者の運転がハイリスクであることは疑いようがない…(つむぎ / PIXTA)

高齢者ドライバーによる重大事故が後を絶たない。原因の多くは操作ミスで、目立つのはペダルの踏み間違いだ。そのたびに、「高齢者は免許を返納しろ!」といった議論が起こるが、移動手段として自動車が不可欠な高齢者も少なくない現実がある。

交通事故の研究機関であるITARDAの統計資料によると、65歳以上による事故では、特に「ペダル踏み間違い」「操作不備」が若い世代に比べて多いことが分かる。

また、2012年比で、事故の数が減る一方で、全体に占める高齢者ドライバーの重大事故の割合は約10%増加している。加えて、高齢者がらみの事故は報道されることが多いため、高齢者ドライバー=危険の印象が世間に刷り込まれている側面もぬぐえない。

最新のものはペダル踏み間違いを検知し、加速抑制→自動でブレーキ

こうした状況を政府やメーカーも傍観しているわけではない。対策の一つとして、車両による運転操作の補完で、事故を減少させる取り組みを継続的に進めている。10月30日、『JAPAN MOBILITY SHOW 2023』で開催された第23回自動車安全シンポジウムにおいて、日本自動車工業会安全技術・制作委員会車両安全部会長の高橋信彦氏は、「統計からも高齢者に特徴的な事故形態として、ペダル踏み間違いがあげられ、これらに有効な技術の研究も進んでいる」と明かし、主な技術として2つを紹介した。

一つは、ペダル踏み間違いを支援する技術、ACPE(踏み間違い時 加速抑制装置)。もう一つが衝突被害軽減ブレーキだ。

ペダル踏み間違いの支援技術は、ソナーやカメラで人の気配や障害物を検知。前方に人や物があるのにアクセルペダルが踏み込まれた場合、加速を抑制する仕組み。最新のものでは加速抑制後にブレーキをかけるものもあるという。2021年時点での新車における採用率は93.1%だ。

衝突被害軽減ブレーキは、前方車両との距離が近づき、危険な状況になると警告を発し、それでもブレーキが踏まれない場合、車両を止めようとする機能だ。追突事故においては、実験で52.9%の削減効果が確認されているという。新車では97.2%に採用されている。

「ジャパンモビリティ2023」で開催された安全運転シンポジウム(左から国交省・猶野 喬氏、筑波大・稲垣敏之氏、日本自工会。高橋信彦氏 10月30日東京ビッグサイト / 弁護士JP)

長年、先進技術によるドライバーの安全運転支援自動車(ASV)の研究を続ける筑波大学学長特別補佐・特命教授の稲垣敏之氏は、研究者の立場からASVの現在地を次のように説明した。

システム主導の判断で運転制御が次のステップ

「システムはドライバーにできないこともできる。例えば前方の路面凍結の有無の予測は、人間には不可能。だが、システムでは可能だ。こうしたことを踏まえ、場合によってはシステムが運転に関する最終決定権を持つことも今後は検討していきたい」と明かし、ASVの次のステップを見据える。

その上で、稲垣氏は「システムはドライバーの負担軽減と、人と車の安全確保を図るものであり、システムとコミュニケーションをとりながら運転を楽しみ、運転技術の向上に生かすことができるものでもある」とし、技術による安全運転の支援の意義と価値について力説した。

国交省は2025年に「交通事故死亡者2000人以下、重傷者2万2000人以下」の目標を設定

国交省はこうした取り組みや動きを後押ししながら2025年に「交通事故死亡者2000人以下、重傷者2万2000人以下」とする目標を設定。令和元年に3000人を切り、現在約2600人にまで減少している事故による死者数のさらなる減少を目指している。

いかに事故を減らすかーー。そのカギを握る重要な要素のひとつが技術だとすれば、昨今は運転を完全に車両に委ねる自動運転による移動も現実味を帯びている。混同しがちだが、ASVとは何が違うのか。

運転にこだわるか、移動できることを優先するか

稲垣氏は、「両者は全く別物です。ASVでは主体はあくまでドライバー。技術は補完的なものです。一方、レベル4以上の自動運転においては移動を車両に委ねます。根本の捉え方が異なるんです。ただ、今後、ASVにおいて、運転判断の最終決定権をシステムがどこまで担うのかの議論次第で、ASVが自動運転のライバルにもなり得ます」と展望を語った。

高齢化はもはや揺るぎない。そうした中で、いかにして車移動におけるリスクを最小化するか…。年齢に上限を設ける免許返納義務化も一つの選択肢かもしれないが、一方で技術の進化を取り込み、クルマと共存する道もあるーー。

高齢者があえて最新テクノロジーを搭載したクルマに買い替える必要があるのかなど、課題も山積するが、少なくとも年齢による判断力や技量の衰えを補完する技術はかなりの段階まで進み、新車のほとんどに搭載されている。未来のクルマ社会は、テクノロジーの進化とそれとどう向き合うかで、その景色が大きく変わっていきそうだ。

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