八甲田牛(青森市)、21年ぶり出荷40頭超える 生産基盤強化でブランド化加速

牛舎に戻すため、放牧していた八甲田牛をトラックに載せる作業員ら。本年度は5月下旬から100頭超を放牧していた=10月中旬、市営共同牧野八甲田放牧地

 青森市がブランド化を進める「八甲田牛」の年間出荷頭数が本年度、21年ぶりに40頭を超える見込みであることが5日までに、市への取材で分かった。ここ十数年は20~30頭ほどで推移していたが、子牛生産の民間委託や生産者団体の設立などによって生産基盤強化や販路拡大が軌道に乗りつつある形。関係者はブランド価値向上に向けた取り組みを加速させたい考えだ。

 八甲田牛は脂が少なめで赤身主体の肉が特徴。市農林水産部によると、ピーク時の1993年には年間259頭出荷されていたものの、牛肉の輸入自由化や霜降りが多い黒毛和牛の人気の高まりなどを背景に生産者数が減少。繁殖・肥育を合わせた生産農家数は93年で17戸あったが、現在は3戸のみとなっている。

 そんな中、生産体制の維持と底上げに向けて、高い畜産技術を有する金子ファーム(七戸町)に2017年度から八甲田牛の子牛生産を業務委託。同社が子牛を生産した八甲田牛の出荷が昨年から本格化し、23年度の出荷予定数は41頭に回復した。今後はさらに体制を強化し、26年度までに年間50頭の出荷を目指す。

 出荷増に合わせて需要拡大をにらみ、22年度には生産農家らでつくる「八甲田牛生産者協会」が発足。それまでは市内の精肉店や県民生協での限定的な取り扱いが主だったが、シェフを招いての試食会などを開催したことで、県内外の飲食店での利用が拡大。本年度はさらにイベントや学校給食での牛肉提供も積極的に行い、ファン獲得を図る。

 ここ数年は健康ブームや高齢化からヘルシーな赤身肉の人気が高まりつつあり、関係者は八甲田牛のブランド化を推し進める好機と捉える。一方、担い手不足や黒毛和種と比べると収益力が劣る点などはいまだ大きな課題。食肉業者らでつくる八甲田牛消費拡大協議会(1989年発足)と生産者協会は、大学と連携し需要が少ない部位を活用した商品開発に着手するなど、「まずはできることから」と課題解決に向けた取り組みを進めている。

 両団体の事務局となっている市農業振興センターの吉﨑雅幸主幹は「肉質など八甲田牛の価値を認めて買ってもらう仕組みづくりが必要。希少性などで黒毛和種と差別化を図りながら、食の嗜好(しこう)の変化に合わせて需要のあるマーケットにアプローチし、収益性を高めていきたい」と話した。

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八甲田牛 北海道や北東北3県で飼育されている「日本短角種」の一種。青森市では1965年ごろから同種の導入が始まり、89年に八甲田牛と命名された。茶色の体毛と、うまみ成分に富んだ赤身主体の肉が特徴。体が丈夫で草など粗飼料の利用性が高く、比較的飼育しやすいとされる。夏は八甲田山麓に放牧し、冬は牛舎で育てる「夏山冬里方式」で生産されている。

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