廃棄ゼロへ「捨てない」ファッション 古着→1点もの、アパレル業界に新たな潮流

古着の生地を縫い合わせるなどして生まれ変わったアップサイクルの服やバッグ=神戸市中央区港島中町6、ワールド本社(撮影・風斗雅博)

 神戸・ポートアイランドにあるアパレル大手「ワールド」(神戸市中央区)の本社ビル。港を一望するアトリエで、縫製担当の社員がコートを仕立てていた。

 生地はグループのブランド古着のセレクトショップで引き取った服から切り出したものだ。新たな商品は、同じデザインでも使う古着が異なるため、生地を組み合わせ、世界に無二の「1点もの」になる。

 同社が3年前に立ち上げたブランド「ビーリリースト」は、廃棄される物に新たな価値をつけて再生する「アップサイクル」の手法で展開する。リメーク技術の高さや消費者の環境意識の高まりで、売り上げは昨秋から顕著に伸びている。

 「いい服なのに、捨てるのはもったいない」。発案したのは、若手社員だった。2025年までの「商品の廃棄ゼロ」などを掲げる同社。「持続可能性を重視し、古着への抵抗感もない世代」(同社)の感性を戦略に生かす。

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 近年、アパレル業界でアップサイクルを取り入れたブランドが相次ぐ。各社が注目する背景の一つが、業界が抱える過剰な在庫や大量廃棄の課題だ。

 環境省によると、国内のアパレル市場規模はバブル期の15兆円から、近年は10兆円程度まで減ったが、供給量は20億点から40億点程度に倍増した。一方、同省の22年度の調査では、服を手放す際、消費者の約7割がごみとして廃棄していた。

 業界ではブランドの垣根を越えて低価格で売り切る仕組みづくりや、店頭で使用後の衣類を回収する事業の他、廃棄品由来の素材開発も進む。

 その一つが、廃棄予定のウール商品をほどくなどして作る「再生ウール」だ。ワールドが素材メーカーと連携して開発し、環境省の研究として製造過程で排出される温室効果ガスを通常製品と比較したところ、3割の削減効果があった。今秋から商品化している。

 同社SDGs推進室の八木恵美子室長は「再生ウールは風合いが軽く、新しい感覚。お客さんの反応もみながら、再生素材を業界に広げていきたい」と話す。

 なるべく捨てずに使い続ける-。その流れは、消費者側にもあった。 (石沢菜々子)

### ■捨てない意識、消費者に定着

 広い店内に膨大な古着や家電が並ぶ。全国に800店以上あるリユース大手「セカンドストリート(セカスト)」の尼崎浜田店(兵庫県尼崎市)。安価な中古品を求め、平日から幅広い世代が訪れていた。

 流通過程で出るごみを減らす手法の一つ、リユース(再使用)市場が活況だ。セカストを展開するゲオホールディングスによると、リユース品の売上高は2018年度の525億円から、22年度は1308億円に増加。環境意識の高まりの他、物価高に伴う節約志向も追い風という。

 月2~3回はリユース店を利用する尼崎市の男性(31)は、冬物衣類とキャンプ用品などを見に来た。家電や服を売ることもあり、「捨てるくらいなら、誰かに利用してもらった方がいい」と話す。

 「今日着てる服、全部古着」とは、同市の中谷昌実さん(42)。以前は中古品を敬遠していたが、家電やソファを購入するうちに抵抗感はなくなったという。「まだ使える商品が捨てられるのは環境にも良くない。新品を使うのがもったいない、と感じるようになりました」とほほ笑む。

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 「捨てない」動きは食品分野でも進む。21年度、まだ食べられるのに捨てられる食品ロスが国内で523万トンに上った。生産の無駄や廃棄の抑止が課題だ。

 1868(明治元)年創業の谷常製菓(同県養父市)は6月、人工知能(AI)の受託開発を行うROX(同県明石市)の来店客数予測サービスを導入した。売り上げ実績と天候データなどを組み合わせ、1週間先の客数や販売数量を見通して生産計画を立てる。

 これまでは過去10年分の来店データなどを基に計画を立てていたが、売れ残りや売り切れが発生していた。AIの予測は、時間帯も含めて実際の客数とほぼ一致。高騰する小麦粉や卵の仕入れ量が圧縮でき、人員配置の適正化にもつながっているという。

 「(採算性の低い)季節商品などの少量生産を維持する上でも、いかに効率よく作り、売るか。時代に合った製造に切り替えたい」と谷常製菓の塩見和亀常務(53)。ROXの中川達生社長(43)は「店長らの勘や経験も貴重な財産。そこにAIを加え、理想的な生産体制になる」と話す。

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 賞味期限などによる廃棄も、食品ロスの大きな要因だ。NPO法人「日本もったいない食品センター」(大阪府摂津市)が兵庫県内などで展開する食品ロス削減ショップ「エコイート」は、賞味期限が切れた食品を仕入れ、定価の2~9割引きで販売する。

 売れ残りそうなら無料で配布。福祉施設や生活困窮者にも寄付し、廃棄に掛かる二酸化炭素排出の削減と生活支援の両立を図る。

 「食べ物は作る際も捨てる際も地球資源を消費する。現状は悪循環の繰り返し」と同法人の高津博司代表理事(45)。「賞味期限はメーカーが短く設定したもので、切れた後もしばらくはおいしく食べられる。食品ロスをゼロにするには、正しい知識と理解の浸透が必要だ」と指摘する。(杉山雅崇、横田良平)

### ■リユース市場、急速に拡大

 環境意識の高まりを追い風に、中古品などを売買する国内のリユース市場は顕著な伸びを見せている。

 環境省の「リユース市場規模調査報告書」によると、自動車や住宅販売などを除いた2020年の販売額は2兆4千億円。09年の1兆1千億円から1兆円以上増加しており、25年には3兆5千億円に達すると見込まれている。

 中でも、個人で中古品などを出品・購入できるフリーマーケット(フリマ)アプリなど、インターネットを通じて消費者同士でリユース品を取引する「CtoC」の伸びが目立つ。16年は5千億円だったが、20年には1兆円と、ほぼ倍増した。

 同省が21年に行った消費者アンケートでも同様の傾向が出ている。回答した男女5万5千人のうち、フリマアプリを利用した人の割合は12.1%となり、15年の2.1%から大幅に増加している。

 また、リユース商品を利用する世代は品目によって異なるものの、10~20代の約千人に1人がフリマアプリでの購入経験があった。

 フリーマーケットアプリ大手「メルカリ」によると、サービス開始以来、メルカリに出品された物品は30億品に及ぶ。環境意識の向上を追い風に、近年売り上げを伸ばし続けている。

 同社が算出した23年の推計によると、メルカリに不要品が出品されたことで回避できた衣類の廃棄量は約4.3万トン(国内のみ)に及ぶという。

 同社の担当者は「さまざまな取り組みを通じてリユースを推進していく。『捨てる』という行為を減らし、循環型社会の実現に貢献していきたい」としている。(杉山雅崇)

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