4年ぶり開催「刑務所の文化祭」に早朝から行列ができたワケ 「塀の向こう」で体験した“プレミアム”な非日常

天気に恵まれた3連休の初日「府中刑務所文化祭」には1万5000人が来場した(弁護士JP編集部)

11月2日、東京府中市の府中刑務所で、「第48回 府中刑務所文化祭」が行われた。コロナ禍の影響で4年ぶりの開催となり、約1万5000人が来場した。

広さ、収容人数共に日本最大規模の「府中刑務所」(東京都府中市)。1500人以上の受刑者を受け入れ600人以上の職員が働いている。

文化祭では、全国の刑務所が刑務作業品などを持ち寄り出店したほか、刑務官らが所属する運動部による焼きそば、焼き鳥などの露店、所内の“職員バンド”の演奏などステージイベントも実施された。

当日は晴天に恵まれ、11月とは思えない季節はずれの暖かさ。開場時間の10時を前に、長い行列ができていた。「自分が出勤する朝7時半にはすでに列ができていました。早い方は6時頃から並ばれていたようです」刑務官のひとりは話す。

開場1時間前(朝9時)の時点で100メートルほどの列ができていた(弁護士JP編集部)

さまざまな催しがあり朝早くから来なくても十分に楽しめるイベントではある。聞けば、早朝から行列に並ぶ人のお目当ては「プリズンツアー」「府中刑務所特製パン」「プリズン飯」「ブルースティック」の四つだという。

“塀の向こう側”を見るプリズンツアー

「プリズンツアー」は、普段見ることのできない“塀の向こう側”を見学できるとあって特に人気のイベントだ。午前・午後の2回ツアーが行われ、いずれも先着1000名が参加できる。10時の開場とともに整理券を求めダッシュする人の姿もあり、テーマパークさながらの光景が見られた。

刑務所の中に入ると、経路に沿い、受刑者が刑務作業を行う工場や浴場などを見ながら進む。外の気温は高かったが建物の中はひんやりとした空気が漂い、ツアー参加者は静かに見学していたのが印象的だった。

受刑者が刑務作業を行う工場などを見学できる(写真提供:府中刑務所)

写真撮影はしないという約束のもと取材陣に公開されたのは「保護室」 。受刑者が壁に頭を打ち付けるなどの自傷行為をしたり、大声を出すなどした際に原則72時間まで収容できる部屋だ。2畳ほどだろうか、天井近くに鉄格子の張られた小さな窓があり、床にトイレと手洗い器がぽっかりと“穴”としてあるだけのきわめてシンプルな空間だった。板張りの壁は他の居室と比べると柔らかくなっているといい、最新の 保護室ではさらに柔らかくクッション性のある壁が採用されているという。

日中という時間帯や板張りなこと、小さい窓もあることから、保護室内は“暗い”“怖い”というイメージはなかった。ただ、実際に研修で「保護室」に入ったという刑務官は「閉鎖的でとてもつらかった」と振り返る。だからこそ、受刑者もできる限りここには入れたくないというが、「それでも、暴れて他の受刑者とトラブルになりかねない時などは、どうしても入れざるを得ないんです」(同前)と複雑な胸の内を明かした。

「刑務所」で作られた特製パン

開場直後から列ができていたのは「府中刑務所特製パン」も同様だ。ここで売られるパンは「普段受刑者が作り受刑者が食べるもの」と同じもの。500mlペットボトルほどの大きさのコッペパンで、1個100円。購入はひとり1回1個までで、2個以上買う場合は再度並ぶ必要がある。

列が途切れず、用意された約1300個のパンは開場1時間半ほどで売り切れていた(弁護士JP編集部)

購入してすぐに袋を開けて食べていた50代の女性に話を聞くと「素朴な味わいでおいしい」と笑顔をみせる。

夫が刑務官だという40代の女性は「パンを売っている刑務所(文化祭)は関東ではここ(府中)だけ」と購入のために豊島区から来たという。近所に住む30代夫婦は「パン目当てで来ました。売り切れることもあると聞いていたから買えてよかった」と話す。想像以上にパンの知名度、人気の高さがあるようだ。

ラベルには「製造者 府中刑務所」と書かれている(弁護士JP編集部)

受刑者が食べている味を体験「プリズン飯」

刑務所内の食事では、「プリズン飯」も人気で、お昼前の11時には行列ができていた。こちらも特製パン同様、受刑者が日常的に作って食べているメニューを “再現”したものだ。献立は年によって違うというが、今年は「カレーライス」が選ばれた。

“プリズン”カレーは税込み700円(弁護士JP編集部)

野菜が大きめにカットされたカレーはやや甘めの味付けで、麦ごはんがボリューム感を演出する。

ちなみに刑務所内での生活で “受刑者からのクレーム”で一番多いのは「食べ物」に関するものだそう。

「中でも味付けが薄いという意見が特に多い。栄養士と話し合って、厚生労働省の基準にあわせて作っているのですが、どうしても外食などと比べると“塩味”が薄くなってしまう。カレーは香辛料のおかげで味が薄いということはないので、受刑者にも人気のメニューのひとつです」(刑務官)

高額転売の例も…大人気の“ブルースティック”

刑務作業品としては異例の大ヒットで高額転売も問題となった固形洗剤「ブルースティック」の販売にも行列ができていた。購入制限を設けたが、用意された480セットが1時間ほどで完売。“1人1セット”のため子どもを並ばせる家族連れもいるなど、白熱した争奪戦が繰り広げられていた。

争奪戦の結果1時間ほどで完売したブルースティック(弁護士JP編集部)

会場は家族連れに限らず、カップル、友人同士のグループ、1人客など、老若男女幅広い層が来場していた。また府中刑務所に隣接して建てられた職員宿舎から来たのか、刑務官らの店で呼び込みを行う子どもたちの姿も見られ、まさに町ぐるみのイベントとしての側面も垣間見えた。

冒頭の通り、4年ぶりの開催となった今年、刑務官は客足について「不安が多かった」と話すが、終わってみれば 大盛況となったようだ。

なお刑務作業品の販売が行われる“矯正展”は全国各地で行われている。中でも1年を通してもっとも大きなイベントである「第63回 全国矯正展」が、12月9日に東京国際フォーラムで行われる。その際、府中刑務所から前述した大人気の特製パンが出張販売される予定だ。

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