獲得賞金2億円超のダービー出走馬リルダヴァル、兵庫で第二の「馬生」 名前変わり、週4でトレーニング 担当者「賢くて穏やか」

明石乗馬協会の元競走馬理瑠と、担当する清水綾菜さん=明石市大久保町松陰

 国内で1年間に育成される競走馬のサラブレッドは7千頭以上に上る。3歳馬の頂点を決めるレースが日本ダービーだ。出走経験がある優駿(ゆうしゅん)「リルダヴァル」が今年、明石乗馬協会(兵庫県明石市大久保町松陰)にやってきた。競走馬を引退して歩む第二の「馬生」。明石での穏やかな日々を追った。(有冨晴貴)

 よく晴れた秋の日、乗馬協会を訪ねるとリルダヴァルは他の馬と草原にいた。馬同士で戯れる姿は、厳しいレースが続く生活から引退し、安住の地にたどり着いた落ち着きを体現しているように映った。 ### ■獲得賞金2億円超

 2007年、競走馬生産の大手「社台グループ」に属するノーザンファーム(北海道)で生まれた。母は中央競馬クラシック無敗の三冠馬に輝いたディープインパクトの姉で、リルダヴァルはディープインパクトのおいに当たる。血統の良い馬と評されていた。

 2歳の夏にデビュー。骨折を経験しながらも3歳3月のレースで復帰し、3歳限定のG1レースに出走を続ける。2400メートルのダービーは距離が長かったためか12着に沈んだが、1600メートルのNHKマイルカップでは3着などと好成績を残す。計2億円以上の賞金を獲得して、15年に競走馬を引退した。 ### ■移籍を機に「理瑠」に

 引退後、社台グループのノーザンホースパーク(北海道)に移籍した。同グループが育成、所有する引退競走馬が多く暮らす。リルダヴァルはここで、競走馬から乗馬に転用され、それまでとは違う歩みが始まった。

 同グループを出た後は農業高校へ。そして今年6月、明石乗馬協会にやってきた。移籍を機に名前が変わり、同協会では「理瑠(りる)」と呼ばれる。今年で16歳になり、人間なら30~40歳くらいに当たる。

 理瑠を担当するのは清水綾菜さん(35)。健康管理やトレーニングのほか、体を洗ったり、冬には防寒具を準備したりするのも仕事だ。競馬には詳しくないといい「すごい馬だったと聞いて、レースの映像を見て驚いた」と話す。 ### ■性格は穏やか

 清水さんは理瑠を「賢くて穏やかな馬」と評する。普段と違う音を聞くと気付いて観察するが、暴れることはほとんどない。牧場や競馬場の多くでは、馬がパニックを起こすためストロボを使っての撮影が禁止されている。しかし理瑠は、記者が許可されてストロボを使っても全く動じなかった。

 取材している間も、むしろ周りを飛び回る虫の方を気にしている様子。清水さんは「僕は今なんの時間なの、と不思議に思っているんじゃないですか」とほほ笑んだ。 ### ■「しっかり跳んでくれる」

 平日は1回、休日は4回ほどを目安に、障害物があるコースを、同協会会員らを背に走っている。「賢いから、障害に脚をぶつけないようにしっかり跳んでくれる」という。騎乗した会員からも「ストライドが大きくてするすると動く」と好評だ。

 一方で、体が硬いことや、競走馬の名残で前に進もうとする習性が強すぎることなど、課題もあるという。現在は、週に4日ほど、1日に1時間ほどトレーニングに励む。体を柔らかくするストレッチや、競走馬はあまり使わないゆっくりとした歩き方「常歩(なみあし)」などを中心に練習している。

 「細身でちょっとあばらが浮いているので、筋肉を付けてもう少しふっくらさせられるといいかな」と清水さん。「理瑠はもうおじさんの年だけど、これからも一緒に頑張って、さらにレベルアップしていきたい」と伴走を続ける。

© 株式会社神戸新聞社