本紙記者、南極へ・第65次観測隊 訓練や健診、乗り越え

雪中登山などを行った冬季総合訓練=今年3月、長野県

 南極観測船「しらせ」が10日に日本を出航し、日本新聞協会の代表として、約5カ月間に及ぶ同行取材が始まる。行き先は単なる外国ではなく、「宇宙より遠い」とされる極地。第65次南極地域観測隊への同行が決まるまでには、さまざまなハードルが待ち構えていた。出発までの10カ月を紹介する。

きょう10日出航、足かけ10カ月の準備

 同協会編集委員会から65次隊の同行者に推薦されたのは今年1月。そこから、2月末の冬季総合訓練を皮切りに夏季訓練や全体打ち合わせ会、南極観測船「しらせ」での訓練航海など、スケジュールがめじろ押しで、「南極に行ける!」と浮かれる暇もなかった。

 中でも、冬季総合訓練は隊員・同行候補者が集まり、南極で安全に行動するための知識や基本技術を学ぶ毎年恒例の訓練で、経験者の間では「南極での生活よりきつい」とささやかれていた。

 冬季総合訓練は長野県の湯の丸高原で、4泊5日の日程で行われた。雪に覆われたキャンプ場を拠点にテント泊や登山などをこなした。テントでは寒さでろくに眠れず、慣れないスノーシューでの登山は日頃の運動不足がたたり、息も絶え絶えの状態。クレバス(雪の割れ目)からの脱出を想定した木登りは、何度も挑戦するうちに5メートルほど登れるようになったが、現地では絶対に落ちないと心に誓った。

 南極への道のりが予想以上に険しいと痛感したのは4月、健康診断を受ける段階になった時だ。昭和基地に診療所はあるが、総合病院はない。限られた医療体制では、大きな病気は治療できない可能性がある。そのため、観測隊に参加するには健康であることが大前提となる。

 健康診断の結果によって、南極行きを諦めざるを得ないケースも少なくないという。「病気が見つかって行けなくなったらどうしよう」。そんな気持ちが、ずっと心の片隅にあった。

 恐らく、40年近い人生で一番、健康に気を使った半年間だった。付け焼き刃で野菜を摂取し始め、節酒を断行。人間ドックではカバーしきれない検査項目の多さに頭を抱えながら、複数の医療機関を回った。10代や20代のころと比べ、体のあちこちに“ガタ”がきていたが、どうにか親知らずを抜いただけですんだ。

 先月30日に同行者として政府から正式に発表があった時は、心の底からほっとした。気付けば出発直前。極地に身を投じる大変さを痛感するとともに、ようやく南極に向かう実感が湧いてきた。

クレバスからの脱出を想定し、木登りに挑戦する記者

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