災害復旧や事故対応…ハピラインが受け継ぐJRの経験 「安全最優先の行動」変わらず実践へ

安全運行に向けて知識や経験を重ねている冨田さん(右)と岩永さん=10月26日、福井県南越前町今庄の今庄施設管理室基地線
【グラフィックレコード】災害に備えて

 福井県南越前町で記録的大雨となった2022年8月5日朝。「南今庄駅の監視カメラに土砂らしきものが写っているとの情報が入った。確認に向かう途中、道に人だかりができているのが見えた。その先で鹿蒜川(かひるがわ)が氾濫し、線路内や踏切内に土砂や流木が流れ込んでいた。信じられない光景で、災害の真の恐ろしさを知った」。ハピラインふくいの技術職社員で、JR西日本に出向し保線を担当している岩永卓也さん(20)は振り返る。

 勤務する今庄施設管理室(同町今庄)からわずか800メートルの線路上に、複数台の車がゴロゴロと横たわっていた。JR北陸線は南越前町内7カ所で、線路などが大雨被害を受け、武生-敦賀間は8月10日まで運休。嶺北と嶺南を結ぶ大動脈は寸断された。

 帰省客の利用が増えるお盆の直前で、JRと多くのグループ企業が、復旧に向け総力を挙げた。岩永さんと同じ出向者で、今庄施設管理室で働く冨田恭平さん(30)も復旧に加わった一人。▽災害場所の範囲や復旧工事内容を決めるための調査▽線路内に入り込んだ土砂の撤去やレールの洗浄▽徐行運転させるための臨時の信号機の設置▽復旧後の軌道状態の検査・測定―など、災害対応を経験した。「復旧後、大雨で再び土砂流入が起きた日があった。復旧したから終わりではない」。線路だけでなく、山の斜面の変化や樹木の傾きなど、周囲一帯のあらゆる場所に目を配る大切さも学んだ。

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 ハピラインは24年3月の開業時、JRからの出向者約170人、県からの派遣10人を含め、約280人体制でスタートする。車両、保線、電気、土木、機械、建築といった技術職のハピライン社員は現在34人。全員がJR西に出向中で、過去の災害・事故事例の教育も受けている。開業時にはJRから出向の技術職25人が加わるが、10年後をめどに出向社員は引き上げるため、安全運行を支えるためにも、自前での採用、育成が欠かせない。

 ハピラインの山本良一・常務取締役運輸部長(69)は「鉄道は長い歴史の中で失敗を積み重ね、安全性を高めてきた『経験工学』。若手社員が多く、災害や事故の経験者が少ないことが一番の課題」と話す。

 JR西に出向しているハピライン社員は、災害現場の対応に当たり、脱線復旧訓練や除雪訓練なども経験しているという。05年に乗客106人が死亡した尼崎JR脱線事故の現場も社員全員が順次訪れ、過去の教訓を胸に刻んでいる。

 元JR西社員の山本常務は、越前大野鉄道部長として04年の福井豪雨、糸魚川地域鉄道部長として07年の新潟県中越沖地震を経験した。「判断に迷ったときはちゅうちょなく列車を止めるなど、安全最優先の行動を確実に実践できるかが重要」と力を込める。

 大雨や大雪災害で近年、たびたび運休や寸断を余儀なくされてきたJR北陸線。冨田さんは「安全に対する意識はJRからハピラインになっても変わることはない」。JRが長い歴史の中で把握してきた、過去の土砂流出地点は引き継いでいる。

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 来年3月の北陸新幹線福井県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。の第5章テーマは「ハピラインにバトン」。新幹線開業後、JR北陸線を引き継ぐ第三セクター「ハピラインふくい」の展望や課題を探ります。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

シンフクイケン・各章一覧

【第1章】福井の立ち位置…県外出身者らの目から福井の強み、弱みを考察

【第2章】変わるかも福井…新幹線開業が福井に及ぼす影響に迫る

【第3章】新幹線が来たまち…福井県外の駅周辺のまちづくりなどをリポート

【第4章】駅を降りてから…観光地へどう足を運んでもらう?

【最新・第5章】ハピラインにバトン…JR北陸線を引き継ぐ第3セクターの展望、課題は?

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