<こちさが>「写真を持っている人はいませんか」 嬉野・旧「笹屋旅館」再生へ思い■佐世保から移住の宇田川さん、喫茶オープン目指す

旧「笹屋旅館」前で、嬉野温泉商店街協同組合の木原靖弘理事長(右)から昔の旅館や近隣の話を聞く宇田川恵さん=嬉野市嬉野町

 「当時の写真を持っている人はいませんか」―。かつて嬉野市の嬉野温泉にあった旧「笹屋旅館」の一枚を探す女性がいる。嬉野をこよなく愛し昨年末、夫と佐世保市から移住してきた宇田川恵さん(50)。温泉街の“原風景”を次世代につなぐ責任を感じながら、喫茶店として再生しようと準備を進めている。佐賀新聞「こちら さがS編集局」(こちさが)は、その思いを追った。

 江戸時代の創業といわれる笹屋旅館は、高度経済成長期には長崎県内の自治体の定宿となり慰安旅行などでにぎわったが、バブル崩壊後に国内旅行が低迷、2000年に廃業した。公衆浴場「シーボルトの湯」や足湯のそばで、人の往来が多い通称「湯の端はた坂」に面している。現在の建物は、1922(大正11)年の温泉街の火災を受け再建したもの。

 復活の動きは10年前にもあった。古い建物がそのまま朽ちていくのはもったいないと2013年、市内でレストランを経営する近藤浩さん(70)が借り受けカフェをオープンした。大広間を使った寄席なども開いたが、老朽化の問題に新型コロナウイルス禍も重なって、昨年以降は休業が続いた。

 佐世保で喫茶店兼レンタルスペースを経営していた宇田川さんは、嬉野の旅館で結婚式を挙げるなど昔から嬉野に思い入れが強く、昨年12月に移住。嬉野での事業を考える中で、近藤さんや、嬉野温泉商店街協同組合の木原靖弘理事長に笹屋旅館を「嬉野の原風景」と紹介され「心が動いた」(宇田川さん)。建物を残すための開店を決めた。

 屋根や床下、大広間などが崩れかかった奥は取り壊すが、玄関やかつての従業員部屋、2階の客室などは修繕する。喫茶ではランチを提供し、地域交流スペースも設ける。

 宇田川さんは「夫と『残りの人生をここの修繕に費やすのもいいね』と話していて、(建物は)もう子どもみたいな存在。使える状態にして、次にここを借りる人にバトンを渡したい」と使命感を語る。旅館の6代目女将だった佛坂千世子さん(89)=福岡県糸島市=は「何かの印だけでも残したい思いはあった。残してもらえてうれしい」と喜ぶ。

 宇田川さんは、来年3月のオープンを目指す「喫茶笹屋」の内装を旅館時代に近づけようと、当時の状態が分かる写真を探しているという。写真の提供や問い合わせは宇田川さん、電話090(7154)6065へ。(志垣直哉)

旧「笹屋旅館」前で、嬉野温泉商店街協同組合の木原靖弘理事長(右)から昔の旅館や近隣の話を聞く宇田川恵さん=嬉野市嬉野町
宇田川恵さんが喫茶を開こうと準備を進める旧「笹屋旅館」=嬉野市嬉野町
旧「笹屋旅館」で喫茶を開こうと準備を進める宇田川恵さん=嬉野市嬉野町

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